そらのわすれもの2
少しの間があった。
知秋は、耐えきれなくなり、下を向いた。初対面の人間に水をぶっかけてしまったので、無理もない。
しかし、次に彼が発したのは意外な言葉だった。
「…もしかして、知春ちゃん?」
その名前を聞くと知秋と竜也は、目を見開き、固まった。
天野知春の事を知っている人間は、極少数だ。
天野知春は、空の精霊である天野知秋の夜の人格だ。そのため、彼女が意思を持ち、行動出来るのは夜の限られた時間だった。当然、彼女の事を知っている人間はいない。
「中川優太…?」
知秋は、唯一心当たりのある人物の名前をドキドキしながら、震える声で口にした。
それは知春が、小さい頃から現在に至るまで、文通をしている男の子の名前だ。
「良かった。やっぱり!」
人違いではないかと、心配そうだった優太の表情が明るくなる。しかし、それを遮るように知秋は言った。
「いえ、私は、知春ではないです。知春は私の双子の妹です。」
「えっ…。」
優太は、困ったような顔をした。
知秋は申し訳なさそうに顔を伏せた。
優太の目の前にある女の子の身体は、確かに彼の文通相手のものだ。しかし、彼女ではない…。