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未花月はるかぜ
未花月はるかぜ
novelistID. 43462
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そらのわすれもの2

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昼休みになると知秋はジャージ姿の中川の席の前にやってきた。顔は緊張で赤らみ、少し早歩きだ。
「天野さん…?」
不思議そうにする優太に知秋は辺りを見回し、言った。
「知秋でいいよ。」
知秋はそわそわと手に持っていたノートの切れ端を優太につきだす。
「お願いがある。」
「?」

「知春と会って欲しい。」

授業中、知秋は知春のことを考えていた。
知春はいつも穏やかだ。
今の生活に不満を言うこともなく、受け入れてくれている。
でも実際のところ、知春の生活は知秋より悪い。
夜の人格という性質上、知春は外の人間と関わりを持たない。
知秋が家を出た為、竜也と話す時間も無い。
孤独になってしまうと分かっていても、彼女は、知秋に休む時間を与えたいと竜也に家を出ることを提案し、説得をしてくれた。

目の前の男の子はそんな知春の唯一の友達だ。

知春を優太に会わせてやりたい。

知秋はそう思った。だから、彼女はノートの切れ端に学校から家までの経路を描いた。

「知春に会ってあげて欲しい。」
知秋は優太を呼び出し、メモを渡し、そう告げた。
優太は、手の中のメモを見る。中を開くと不格好な絵と文字が目に入った。それは、誰が見ても汚い印象を持つものだ。しかし、よく見ると凄く細かく道筋が書かれ、何度も書き直したのか沢山シャープペンの跡が残っていた。
「構わないけれど…。」
「何?」
知秋は、優太の表情が雲っているので、不安になる。
「いきなり家に行くのは申し訳ない気がするよ。」
優太は、ノートの切れ端から顔を上げ、その紙を知秋に返した。
「え!?」
知秋は、頭が真っ白くなった。返された紙の意味も分からず、慌てて優太を見る。
「どうして?」
狼狽えながら優太に話しかける。
「いきなり人の家に上がるのはちょっと…。」
優太は困ったように知秋を見上げる。
(どうしよう…。)
「知春に会いたくないってこと!?会う価値がないってこと?」
思わず知秋は泣きそうになる。
口からは出るのは思い付く限りの日頃から自分が感じている不安。
「違う。ただ…。」
「ただ…?」
あまりの知秋の狼狽えっぷりに優太は退きつつ答える。
「いきなり家でなくてもよくないか…。駅とか、駅ビルのカフェとかでいいしさ…。」
それはごく普通な意見だった。しかし、友達と放課後過ごした経験が著しくない知秋は知るよしもない。
「家で会って欲しい…。」
なぜ断られているのか真意も分からず、拒否されたと思い、消え入りそうな声で知秋はお願いした。優太はその姿を見て観念した。
「分かった。じゃあ、放課後直接向かうよ。天野さ…知秋、何だったら一緒に帰ってくれないかな?その方が早いし…。」
優太はさっき渡して貰ったノートの切れ端を知秋に渡そうとする。
「!!!」
一気に知秋の顔から血の気が退いた。知秋は知春の朝の人格だ。一緒に存在はできない。知秋は知春に優太を会わせるということのハードルの高さに今さら気がついた。
「いや…。あたしはいないんだ。ちょっと…塾が…。」
知秋は既に定番になっていた夜に人と会えない言い訳を使い、返そうとするノートの切れ端を優太に突き返した。 声が上ずる。 優太は不審そうに知秋を見る。

「じゃあ、知春ちゃんがこっちに…。」
優太はなかなかすんなり『うん』と言わない。

もう無理だ!
めんどくさい!

「もういい!」

知秋は我慢が出来ず、優太の手からさっき突き返したばかりのメモを取り上げた。
気が付けば、優太の傍にいたクラスの男子たちが物珍しそうに知秋を眺めていた。

「いや…。行くよ。」
優太は、その場を収めるように言った。
「俺、知春ちゃんと会ってみたいから…。」
優太がそう言ったので、知秋は紙を再度優太に渡した。