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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅲ

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「どうしてわかるんですの?」
「退治屋の証明書を持ってるやつが何人かいた。気付かなかったか? これだ」
 そう言って、キーネスは懐から細い鎖につながったメダルを取り出した。楕円形で、四角い組み紐模様のある盾が描かれている。そう言えば、集落で会った女性もこのメダルを首にかけていた。
「姿を消した旅人。退治屋。その可能性は大きいわね。でも、それなら彼らは何故ここに来て、ここで農業なんてやってるの?」
 魔物退治屋なのに魔物に会ったことがないなどと答えた? 旅人ならここで生まれ、この集落を出たことがないなんて答えたのだろう。悪魔に取り憑かれたせいではない。あれ程悪魔がいるというのに、あの集落の住人は誰一人として悪魔に取り憑かれていなかったのだから。
「彼らは退治屋だ。人喰いの森に危険な魔物がいると教えられたら、退治しに来るだろう。職務熱心な奴ならなおさらな。そうやってここに来て、この神殿に入った。そして――」
 キーネスは振り返って壁に手をついた。逆光のせいで影になり、彼の表情が見えなくなる。一瞬の沈黙の後、キーネスは静かに言葉をつづけた。
「気をつけろ。自分がなにをしているのか見失わないように」
 その時、轟音と震動が狭い神殿の通路に響き渡った。埃と砂塵が充満し、視界を奪われる。漂う砂塵から顔を庇い、衝撃の余韻が過ぎ去るのを待って目を開くと、先程まではなかった真っ黒な闇が、目の前に広がっていた。
「ゴホゴホ・・・何があったんですの!?」
背後でティリーが咳き込みながらそう言うのが聞こえた。同時に炎がはぜる音がして、視界が一気に明るくなる。ティリーが魔術で炎を生み出したのだ。視界が確保されたので、リゼは轟音がした方向へと視線を移す。するとそこにはすでにアルベルトが向かっていた。目の前に立ちふさがった先程までなかった黒々とした壁を見回しながら、アルベルトは愕然とした様子で呟いた。
「入り口を塞がれた。神殿内に閉じ込められた・・・・・・!」



「――それでキーネス殿と退治屋をすることになったんですね」
「そうそう。ま、あいつが情報屋と兼任してるって聞いた時はびっくりしたけどな。まあ情報屋にも、退治屋やりながら情報集めるって奴は何人かいるんだ。現場の調査員みてーなもんかな。それから新米退治屋として働きだしたんだ。
 色んな魔物と戦ったなあ。魚の化け物とかも戦ったぜ。一番多いのは狼かな。ミガーには多いんだ。商隊がよく襲われるから、護衛の仕事してるとしょっちゅう戦うぜ。
護衛といえば、たまに依頼主がけち臭くて報酬減らそうとしたりするんだよ。一回そういう奴がいて、あの時は本当に参ったよ。報酬でうまいもんが食えると思ってたのに。
 そうそう、報酬は均等に分けてたんだけど、いつも分けるのが難しくてさ。うまく割り切れないから、いつも余った分で美味いもの食いに行ったりしてたよ。まあオレは金勘定苦手だからいつもアイツ任せだったんだけどな。金勘定きっちりしてるし。ちゃっかりしてて結構がめついけど」
「報酬をちゃんと払わないなんて、契約違反にはならないんですか?」
「まあな。ほとんどの依頼主はちゃんと払うんだけど、契約なんてしてないってすっとぼけて払おうとしない悪徳商人――というか依頼主もいるんだ。相手が下手に金持ちだとオレ達じゃ太刀打ちできないときがあるし。よっぽどの時は同業者組合(ギルド)が出てきて解決してくれるけどな」
「そうなんですか」
「そういう悪徳商人のことは情報屋に聞いたりして依頼を受けないように注意すればいいんだ。まあオレ達が引っ掛かった一回はキーネスがちゃんと調べなかったせいなんだけどな。あいつ、情報料はきちっと取るくせにそれ以外の金のやり取りには意外と関心薄いんだよなあ――」



先程まで神殿の入り口はすぐ目の前にあった。しかし今はなく、代わりに黒々とした岩壁が鎮座している。おそらく、天井からこの岩壁が落ちてきて入り口を塞いだのだ。単純な仕掛け。それも、人を神殿内に閉じ込めるための――
「キーネス。キーネスはどこ?」
 周囲を見回してもキーネスはどこにもいない。入り口に立っていた彼の姿は岩壁の向こうに消えてしまっていた。岩壁に押し潰されたのではない。――どうやらキーネスはこの仕掛けのことを知っていたようなのだから。
「あいつ、私達をここに閉じ込める気だったのね。でなければあんなタイミングよく岩壁が降ってきたりしないわ」
「わたくし達を騙してたってことですの!? 信じられませんわ。ちょっとキーネス! 聞こえてますの! ここから出しなさい!」
 呼びかけても、ティリーの声は洞窟内を反響するばかりで返事はない。最も、騙してここに閉じ込めたのなら答えるはずもないだろう。
 脱出を阻む黒い岩壁。表面は意外にも滑らかでつやを放っている。なかなか分厚そうだし、どこにも隙間は見当たらない。簡単には壊れなさそうだ。
「ティリー、アルベルト。どいて」
 一歩前に踏み出して、リゼは掌に意識を集中させた。振り返った二人はリゼの次の行動を察してあわててその場を離れる。それを横目に、さらに意識を集中させて掌に風の塊を創り出した。
強力に圧縮された魔術の風。それを一気に解き放つと、強力な衝撃波となって壁にぶつかった。真空波が唸りを上げて駆け巡り、空間全体を震わせる。竜巻よりももっと強力な、凄まじい風の刃。しかしそれが消失した後、岩壁には傷一つ付いていなかった。
「あの魔術で壊れないなんて…!」
後ろでティリーが驚愕の声を上げだ。神殿が崩れることを考慮して決して規模は大きくしなかったが、岩壁程度簡単に破壊できる威力にしたというのに。しかし岩壁は破壊できなかった。ただの岩壁ではない――リゼは再び魔力を集中させると、今度は鋭い氷の槍を創り上げた。
「リゼ! ちょっと待ってくれ!」
 アルベルトが止めようとしたが、リゼは構わず魔術を解き放った。氷槍が空をきって突き進み、壁の中心に激突する。魔力の波動が洞窟全体を震わせたが、壁には傷一つつかない。氷槍と岩壁の魔術を阻むエネルギーはしばらく拮抗していたが、遂には押し返され氷槍の方がバラバラに砕け散った。
 次の瞬間、岩壁の表面に複雑な文様が浮かび上がった。それは瞬きの間だけ閃光を放ち、その中心に魔力の球体が生み出される。そこから迸ったエネルギーが、唸りをあげてリゼ達に襲いかかってきた。
「我にご加護を! 堅固たる守護を与えたまえ!」
 その時、飛び出してきたアルベルトが祈りの言葉を唱えて剣を掲げた。不可視の障壁が襲い掛かるエネルギーを防ぎ、四散させる。そこから生まれた氷片が飛び散り、真空波が床を傷付けた。
「――反射結界ですわ! あの壁に魔術は通用しません!」
 風と氷雪が舞っているのを見て、ティリーが岩壁の仕掛けの正体に気付いたようだった。反射結界か。通りで壁の周囲に魔力が流れて行かないはずである。
「なるほど、そういうことだったのね。やっぱり魔術で破壊するのは無理か」
 魔術をぶつけても全てではないにしろ吸収されてしまうのだ。高威力の魔術を何度もぶつければ破壊できるかもしれないが、そのたびに反射されてしまったらこちらの身が持たない。