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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅲ

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 ゼノ――というよりミガー人全般に共通して、悪魔祓い師の評価は低い。『偉そう』で『お高くとまって』いて、『異教徒に対してとことん冷酷』な奴ら。教会に長らく迫害されてきたミガー人にとって悪魔祓い師とはそういうものなのだ。ゼノも個人的な恨みはないが、同業者の魔術師達がただアルヴィアにいるというだけで――時に教会の助けを得られなかったアルヴィア人を、魔術で魔物から救ったという理由で――悪魔の手先として処刑されたのを知っている以上、いいイメージを持てというのが難しい。
「ええっと、立場上毅然とした態度を取られることは多いですけど、とても優しい人達ですよ? わたしにも良くして下さいましたし・・・・・・」
 反論したのはアルヴィア人ゆえだろうか。シリルは困ったような顔でそう言った。でも――ゼノはシリルの体質を思い出して眉間に皺を寄せた。
「でもお前が悪魔に取り憑かれてるのに何もしてくれなかったんだろ?」
「そうですね・・・・・・でも、今思えば何か理由があったのかも・・・・・・それに、きっと命令していたのは・・・・・・」
「ん? 何だって?」
「い、いえ、なんでもないです。それより、皆さんご無事だといいですね」
 後ろを振り返って、シリルが心配そうに言う。彼女が今しがた言いかけたことが少し気になったが、ゼノも心配――というより不思議に思っているのだが――しているのは同じだった。
「キーネスの奴、あんなに急がなくても魔物はにげねぇと思うけどな」
 被害が出ている以上、速くするに越したことはないのだけど、基本慎重なキーネスが町に戻って態勢を整えることさえしないのは妙だった。それに、いくら実力があるからと言って出会って間もない、しかも退治屋ではない奴を連れて行くなんて。
「ゼノ殿・・・・・・ひょっとして魔物退治に行きたかったんじゃありませんか?」
「ん? まあ本職だからな〜」
 実力があるとはいえ退治屋ではないリゼ達は魔物退治に向かって、自分だけは仲間外れ、というのはなんとなく悲しいものがある。
最も、今の状況が不満という訳じゃあない。ゼノはうつむいたシリルの頭にぽんと手を置いた。
「でもおまえの面倒見るのも大事だからな。気にすんなよ。単にキーネスの野郎が一人でかっこつけんのが気に喰わねえだけだ」
 そのまま実家の義弟義妹達にやるように髪の毛をくしゃくしゃにすると、シリルは驚いて目を丸くした。まあお嬢様らしいシリルに、頭を豪快に撫でられることなんてなかったのだろう。しまった。ついいつもの癖でやっちまった! とゼノは焦ったが、シリルはにこっと嬉しそうに笑って髪を手櫛で整えた。
「――そういえば、ゼノ殿とキーネス殿ってお友達なんですよね」
「ん? ああ。故郷が一緒でよ。何の因果か同じ退治屋になってもう十年以上の付き合いになるぜ」
 キーネスの方が先に故郷を出たから途中二年ぐらい断絶があるが、それにしたって長い付き合いである。故郷を出て、退治屋になるために向かった町で偶然再会した時には、まだこの腐れ縁が続くのかと笑ったくらいだ。
「子供の頃から友達なんて素敵ですね」
 そう言うシリルは少し羨ましそうだった。別にいいもんじゃねーよあいつしょっちゅうオレのこと馬鹿にしやがるからさ。そりゃあそんなに頭よくねーけどよ・・・・・・と言うと、シリルはくすくすと笑った。まあ、お前の顔はもう見飽きたなんて言いつつも、気が合うから一緒に退治屋業を始めたのだ。キーネスの毒舌攻撃も挨拶みたいなものである。
「一緒に退治屋かあ。魔物退治屋って、どんな感じのお仕事なんですか?」
 そんなこと気になるのか、と思ってシリルを見ると、彼女の眼は好奇心で輝いていた。およそシリルのようなタイプの女の子が好みそうな話ではないのに、興味津々といった様子である。
(あーそう言えばコイツ教会を脱出した後もこんな感じだったな)
 どうやらいいところのお嬢様らしい彼女は一般庶民の生活というのが珍しいものだらけらしく、あれこれ質問されたのだ。元々好奇心旺盛なのだろう。仕方なく、面白い話じゃねーけど、と前置きをしてから、ゼノは話し始めた。
「普通は退治屋同業者組合(ギルド)ってところに行って、仕事を案内してもらうんだ。よくあるのは町や村を襲って来る魔物を倒す仕事だな。他には商人の護衛とか。オレはよくこの仕事をやってたよ。
 ちなみに、退治屋には一応認定試験みたいなやつがあって、これに合格しなきゃ同業者組合(ギルド)に入れないんだ。これが本当に大変でさ。知識もそうだけど、腕っぷしを証明しないといけなくて――」



 神殿の入り口は階段を上った先にあった。扉は風化して崩れ落ちたのかわずかに残骸を残すのみ。壁面は不思議な文様がほどこされているが、蔦と苔に浸食され、ほとんど見えない。神殿の中は入口数メテルのところから闇で満たされ、まるで吸い込まれるように風が吹いていた。
「――奥の方にいる。かなり強いな」
 神殿全体を眺めながら、アルベルトがぽつりと呟く。アルベルトでなくても、魔物の凶悪さは気配の大きさから窺い知れるほどだった。
キーネス。君は一度ここに来ているんだよな。中にいる魔物のことについて何か分かっていることはあるか?」
「・・・・・・神殿の中は所々崩壊しているせいで迷路になっている。仕掛けも多い。魔物は多いが群れのボスに当たる奴がいる。叩くのはそいつだ」
 そう言ってキーネスは中に入っていく。リゼ達も後に続いて神殿内に入った。
 神殿内に一歩足を踏み入れると、暗く冷え冷えとした空気が足元に絡み付いてきた。奥から漂ってくるのは粘つくような悪魔の気配。神殿の外壁を覆っていた蔓や蔦は内部にも侵入していたが、天井から垂れ下がっていた蔓を切り払った跡がある。集落の住人達がやったのだろうか。
「でも、集落の守り神がいるという割には手入れされてないわね」
 壁一面に蔦が這っているのを見て、リゼは呟いた。まだ入り口数メテルの所だが、同じ守り神の住まいであるルルイリエの湖が雑草もなくきれいに整地されていたことを考えると、この神殿は荒れ放題といっていい。『守り神がいるから失礼なことはしないでくれ』という割には、通行の邪魔になる蔦を除いたくらいで祀る場という雰囲気ではなかった。
「守り神がいるということは、ルルイリエと同じように神域にもかかわらず何らかの理由で魔物が棲みついたということか。でも、さっき会った人の話だと、この中に入るのは特に禁止されていないみたいだな。神殿内の植物が生活の糧だと言っていたし、むしろ定期的に中に入っているはずだ」
 言いながら、アルベルトは周囲に視線を巡らせた。彼の眼には浮遊する悪魔の姿がはっきり捉えられているだろう。
「なのに何故魔物のことを知らないんだ? この場所ですでにこれほど悪魔がいる。奥まで行ったら魔物に襲われない訳がないのに」
 ここの魔物は集落の住人達を襲わないのだろうか。そんなはずはないと思うが・・・・・・
「あの集落の住民達・・・・・・人喰いの森の魔物に呼ばれて姿を消した旅人達だろう。それも、大半は退治屋だ」
 ふいにそう言ったのはキーネスだった。先頭に立っていた彼は、振り返ってリゼ達を追い越すと、神殿の外、集落の方に視線を移す。