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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅲ

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 ゼノは奇妙な少女の姿を胡散臭そうに見つめた。登場すべき場所を間違えたのではないかと思われるこの少女――リスエールは、ゼノにボディブローをかまし安眠を妨害したことを悪びれもせず、にこにこと笑っている。仮にも人にものを頼みに来たというのに・・・あれ?
「・・・おまえさ」
「はい?」
「・・・・・・なんでオレが退治屋だって知ってんの?」
 寝起きのぼんやりした頭でようやくその事実に気づき、少しばかり焦りを覚えながら恐る恐る聞いてみる。一方、リスエールはと言えば少し得意げな顔をして腰に手を当てた。
「それはその筋の方に紹介していただきました。ちょっと頼みたいことがあって、あなたみたいな方を探していたんです。条件さえ満たせば入国が可能とはいえ、このアルヴィアにミガーの方がいらっしゃるのは珍しいですから。しかも、魔物退治屋なんてアルヴィアじゃ認められていない裏の職業ですし」
「・・・・・・おい」
「腕っぷしが期待できて、おおっぴらに頼めないことも頼める相手を探していたら、あなたに行きついた訳です。近くにいてくれて助かりました」
「おい、人を危ない裏の仕事してる人間みたいに言うなって」
 いや実際危ない仕事なのだが、ついでに裏の仕事であるのも事実なのだが、別に悪いことをしている訳ではないのである。ただ、この国――マラーク教徒が住まい唯一絶対の神を崇める国・アルヴィアでは、退治屋という仕事は公認されていないのだ。なにせ悪魔祓い師でも教会の守護騎士でもない人間は、悪魔にも魔物にも自分から関わってはいけないのだから。
 そもそも魔物退治屋と言うのは、ゼノの故郷であるミガー王国で確立した職業だ。マラーク教の唯一絶対神ではなく、数多くの神を崇めるミガーには、悪魔祓い師がいないがために魔物退治屋という職業が必要だったのだ。人に取り憑いた悪魔を祓う術はないが、少なくとも魔物から身を守ることは出来る。ミガーに住む人の生活に欠くことのできない大切な職業だ。
 それなのに何故ゼノがアルヴィアにいるかというと、ミガーで仕事が見つからなかったから・・・・・・という訳ではない。知り合いの商人の依頼で護衛をしていたら、急遽人手が足りなくなったとかで荷運びも手伝った結果、アルヴィアまで来ることになってしまったのである。基本的にアルヴィアはミガー人の入国を歓迎しないが、商人(この場合は荷運び人だが)としてなら案外簡単に入れるのだ。ただ、退治屋はアルヴィアでは公認されていない仕事なので名乗ることなんてできないし、退治屋だと知って依頼してくる人間なんていない。はずなのだが。
「だいたい“その筋の方”って誰だよ」
「それは言えません。第一、私もよく知りません」
「知らないのかよ!?」
「ええ、知らなくったって、必要なことを教えてくれるのなら問題ありませんから」
 にこにこと微笑みながらリスエールは言う。どうやらかなーりしたたかで肝の据わった御仁らしい。どうしよう。苦手なタイプだ。しかし、苦手だろうとなんだろうと客は客。一応、話は聞いといた方が良いだろう。
「・・・・・・で、依頼って何だ?」
 布団をはねのけベッドの上で胡坐をかくと、視線の高さがちょうどリスエールと同じになる。彼女の口元は登場した時と変わらず笑みを浮かべていたが、その緑の瞳は『依頼は何か』と聞いた瞬間から、
(・・・・・・こいつ)
――誰かを案ずるような、ただひたすら切実な思いが浮かんでいた。
「時間がないので簡潔に言います。ある人を――シリルさんを助けてほしいんです」
「・・・・・・」
「シリルさんはとっても優しくてきれいで・・・私のお姉さんみたいな人なんです」
 リスエールは笑みを消し、スカートの裾をぎゅっと握りしめる。それでも勇気を振りしぼるように言葉をつむいだ。
「大事な・・・・・・大事な人なんです」
 しばらく沈黙が続いた。それを破るようにゼノがため息をついて扉へ向かって歩き出す。
「悪いけど退治屋である以上、アルヴィアで依頼は受けたくないんだ。なるべくな」
 少女の目が絶望に見開かれる。ゼノは容赦なく言葉を続けた。
「おまえさっき言っただろ。『退治屋なんてアルヴィアじゃ認められていない裏の職業』だってな。派手なことして教会に目つけられるなんてことはしたくねえ」
 正式な入国許可証があれば追い出されるということはないにしろ、ミガー人だと知られただけで白い目で見られる国なのだ。退治屋であるということがバレたら、どんないちゃもんをつけられるかわかったものじゃない。ドアノブに手をかけて、ゼノは少女に外に出るよう手振りした。
「そう、ですか・・・でも、他に頼れる人もいないんです。無理は承知していますが、どうにか引き受けていただけませんか・・・?」
 少女は懇願するようにゼノを見つめたが、どうやらゼノの意志は変わることはないと察したらしい。諦めた少女は目に涙をためながらとぼとぼと扉の前まで足を進めた―――その時。
「!」ゼノが少女の手を引き、そのまま剣をたずさえずんずんと外へ出た。
「ま、それは教会に目をつけられるような派手なことをするときの話だけどな」
 少女は何がなんだか分からないといった顔でぽかんとゼノを見ている。
「詳しい状況は移動しながら話せ。あー手短にかつ分かりやすく簡潔にな。オレバカだから」
「なんで・・・」
 ゼノは少女の問いに照れくさそうにそっぽを向いた。
「前払いは受け取っちまったしよ。――お前の必死な気持ち、そう安いモンじゃないだろ」
 少女は驚いたように目を見開いた。本当のところゼノだって危ない橋は渡りたくないのだが、泣いている女の子をすげなく追い返すなんて非道なことは出来なかったのだ。
 こんな少女が頼むことなんて、大したことじゃないだろう思ったこともある。少なくとも、この時は。
「リスとお呼びください」
「あ?」
「私の名前です。リスエールはいささか呼びづらいと思うので」
「・・・おう。オレはゼノ・ラシュディだ。オレのもなげーからゼノ様とかゼノ陛下とかゼノ閣下とか好きに呼んでくれ」
「・・・はあ」
 こうしてゼノはリスの依頼を受けることとなった。



 都会から少し離れた街リリック。豊かな緑と丈夫なレンガ建築技術が自慢のこの街には、古びた教会があるくらいのものでそう珍しいものはない。しかし温かな活気の溢れるこの街をゼノは少なからず気に入っていた。
 立ち並ぶ店を見回していたゼノは、足早に進むリスに目を移すと口を開いた。
「で、シリル・・・だっけか。そいつはどうしたんだ?」
「――シリルさんは誘拐されたんです」
「誘拐? じゃあ教会に頼んだ方がよかったんじゃねぇの?」
 教会は悪魔祓い師だけでなく、その才を持たぬ者もまた騎士として育成し、統括している。皇帝以外の軍力保持(といっても現在皇帝位は空位の状態が続いており、帝国軍の統帥権は元老院にあるといっていいのだが)に反対を告げる者も少なくなかったが、増加し続ける悪魔の存在とそれにより広がり続ける信仰に打ち勝つ術もなく敗れ去り、現状に至る。そして本当の意味で悪魔を抑えることが出来るのも教会のみ。結果、実質的に教会が民間の保護活動を行っているのだ。