誰か彼を探して
「花ちゃん、どうした? 御焼香がはじまるよ。行こう」
後ろから来た梨香ちゃんがそっと話しかけてきた。
「うん」
私は梨香ちゃんの後ろについて
御焼香の列に並んだ。
線香の匂いがたちこめ、女性のすすり泣きや
ヒソヒソ話す声が聞こえてくる。
御焼香をする人々に、喪主のJ.Jの父と
その横でJ.Jが顔をあげずにお辞儀をしている。
誰とも目を合わそうとはしない。
私は彼から目を離すことができなかった。
少し痩せて、黒いスーツのせいだろうか
とても大人びて見えた。
私は声をかけることもできずに
通夜の席を後にした。
J.Jの哀しみが私にのしかかる
苦しくて眠れない
話したい。
彼ともっと話したい。
窓を開け夜の空気を確認した。
夜空は星が落ちてきそうなほど
明るかった。
夜中に私は玄関から抜け出した。
J.Jと笑いあったあの公園へ
走った。
走る必要などなかったけれど
とにかく走った。
J.Jがいた。
公園の滑り台のてっぺんに座って
滑りたそうに星を眺めて…。
私は滑り台の下から近づいて
彼を見上げて言った。
「ごめんね!」
彼は口を結んで首を横に2回振った。
彼の瞳に夜空と星が映って青く輝いていた。
お互い何も語らずに、ブランコを漕いで
夢中で漕いで「またね」と別れた。
また明日会えるかのように。
なのに、J.Jに会うことはもうなかった。
1週間後、家を訪ねると、もぬけの殻だった。
梨香ちゃんが聞いた噂では、いつのまにか
夜逃げのように引っ越してしまったらしかった。
私は慌てて、J.Jの携帯に電話してみたが
もう使われていなかった。
こんな別れ方、納得できないし悲しすぎる。
あの夜、公園に来たのはこの街に別れを告げるため
だったのだろうか。
友達以上、恋人未満。
そんな彼はもういない。
青い瞳のJ.Jは私のことなど
もう忘れてしまっただろうか。
秋の夕暮れ、私は森下さんの車の助手席に座り
J.Jと過ごした街並みの中、人ごみにJ.Jの
姿を探す。
(誰か彼を探して 第1章 了 )