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リンドウノミチヤ
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KYRIE Ⅱ  ~儚く美しい聖なる時代~

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第2章 接触~Louis-Seydoux3~




 その瞬間の感覚を、統也は後になってもはっきりと思い出すことが出来た。


 彼はルイ・セドゥ・ヴァイヤンの妻を凝視した。 
 イングリッド・ヴァイヤン公爵夫人。少女期の名は草影史緒音。

 かつての、少年とみまごうがごとく、まるで性が存在しないがごとく無機質だった細く長い手足は、透明さを増して白く滑らかだった。光沢を帯びた薄い色彩のイヴニングドレスを長身に纏い、透ける亜麻色のまとめ髪が繊細な顔の線を際立たせていた。

 十代の自分の傍らにいた少年は永久に去っていった、統也は喪失感と共にそれを理解した。最早、かつての少女は名残のみを遺して消え去り、別の女性としてそこに存在していた。しかしその瞳は、昔、13歳の少女だった彼女を害そうとした者達を躊躇なく殺したあの時と同じく、透徹した酷薄さで統也を見ていた。そこには何の感情も読み取ることは出来なかった。
 統也は全身が麻痺したかのようにその場を動けなかった。言葉ひとつ発する事が出来ず、夫人を見つめた。 
 
「少年は少女に出会う、だね」

 愉快そうなルイ・セドゥの声に統也はぎょっとして公爵を振り返った。では、この男は全てを承知の上で敢えて自分を招いたのか。

「紹介しましょう、彼女はラーゲルレーヴの現会長です、君の所属しているチームのスポンサーの親会社、北欧の一族が運営している一大企業ですよ。彼女は数年前にその後継者となりました。そして今は私の妻でもあるけどね、ねえイングリッド?」

 その時、客達を掻き分け見慣れた男が近づいてきた。統也の所属するチームの花形レーサー、キリアンだった。既にアルコールをたっぷり含んで足取りもおぼつかない有様である。傲岸不遜で怪しげで鼻持ちならない性格だがそれでも皆に愛されているのはこの男の個性のひとつだろう。彼は機嫌よく統也そして公爵夫妻達に挨拶した。ルイ・セドゥはキリアンの個人的な出資者でもあった。

「今夜は本当に盛会だこと」

 聞き覚えのある低い声音に統也は我に返った。公爵夫人は怜悧な瞳で統也とキリアンに軽く目線を送ると、夫と支店長をいざなって他の客達の待つ隣室へと去っていった。軽やかな風の様な所作だった。

「正しく、月の女神だな」

 キリアンは立ち去る夫人の後姿を暫く眺め、彼らしくもなく控えめに呟いた。

「夫人は北欧の人間だと聞いていたが、東洋人の血が入っているな。世界中巡っても滅多にお目にかかれない類の女だよ、あれは。まあ、俺はああいうのは御免だけどな。どうだ、統也?」