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烈戦記

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『...死に場所が出来たか』

父はぼそりと呟いた。



『では今後についてだが、何か意見のある者はおるか?』

一瞬何が起こったと言わんばかりの驚きが重臣達の中でおこる。
そんな状況からは皆後者を想像していたのだろうというのが伺える。
そのせいで今の一連の流れからどうして私に対してのお咎めも無しに話が進むのかを理解できていないようだ。
仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが少し寂しい気もする。
多分父も同じ気持ちだろう。

だが、このままでは話が進まない。
国の一大事について国王から質問されたのだ。
ならば臣下はそれに応えねば。

『当然、国を挙げて戦仕度を整えるべきでしょう』
『じゃな。それについては皆同意でよいな?』

依然として重臣達の動揺は続いてはいたが、父は先程のやり取りに対してわざわざ解説するつもりは無いようだ。
無論、私もそんな野暮な真似はしない。

『ふむ、異論は無いな』

半ば臣下を置いてけぼりにしている感じはあるが逆にこの後に及んで北国との平和的解決を申し出る者はいないだろう。
仮にいたとしても、あちら側からの一方的な裏切りに対してこちらから歩み寄る事はありえない。
皆それは重々承知しているはずだ。

『では直ちに晏城にて守備を整えよ。また、国内にも戦の旨を』
『は、直ちに』
『皆の者!』

父が声をあげる。
皆父に向き直る。

『これより再び北国との戦へと入る!各々思うところはあるだろうが、北国と我々の関係は既に切られた!短い間の平和ではあったが、それらは本来ならば我々が守り抜いて得るものだ!』

父の力の篭った演説は本来の歳を思わせない程に空気を震度させ、私たちの心を揺する。
そしていつの間にか先程までの動揺が嘘のように臣下達の目は皆固い意思を宿していた。

これが父の、王者の演説か。

私の中で改めて父への敬意の念が強まった。

『きっと昔のように、いや、昔以上に厳しく長い戦になるだろう。だが、それでも我々は北国に対して頭は垂れる事は無い!退く事はない!何故ならば我々は誇り高き蕃族の民だからだ!そしてその誇りを穢す北の野蛮人共をこの地に入れはしない!皆再びこの戦に命を賭けよ!』
『『オォォォ!!』』

体の奥底から何とも言えない熱が沸き上がってくる。
戦の空気に血がたぎる。
それらの感覚は平和の中では決して味わえない高揚感だ。
そしてそれらの感覚により再び昔の戦時代に戻ったような気がする。

だが、一つ違うとすればそれはきっと北国の人間を少し知ってしまっているからだろう。
心の奥底では憎悪とは裏腹に複雑な感情が芽生えてしまっている。

だが、既に戦は始まってしまった。
もう躊躇う事は許されない。

私は重臣達の雄叫びの中で何かを振り払うように全身の力を込めて喉を鳴らした。


戦の始まりだ。


作品名:烈戦記 作家名:語部館