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烈戦記

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きっと凱雲が言う事が正しいのなら、手合わせをしたその老将は次があるかどうかもわからない友好関係の為にその友好関係の価値や重さ、それらを十分に理解して欲しいくて改めて責めるような事を言ったのだろう。

『次の...か』

だが、果たしてその”次”がこの国に訪れるのだろうか。

『えぇ、次でございます』

だが、目の前の彼はその次を信じている。
そして彼と手合わせしたその老将もまた...。

『...ならば、期待させたからには責任は取らねばな』

私は再び決意した。
崩れてしまった信頼関係。
それを再び取り戻すのだと。

...どんな形になろうと。

私は顔を上げた。

『凱雲。礼を言うぞ』
『いえ、とんでもございません』

凱雲。
お前には助けられてばかりだ。
私はその言葉を口にせずに心の中で呟いた。

『ところでその老将は?』
『一騎打ちの末に立派な最期を遂げました』
『...そうか』

できればその老将にも今後の時代の流れを見届けてもらいたかったが残念だ。
...いや、見ない方がいいのかもしれないが。


『...洋班様はどうしておられる?』

私は話を切り替えし、これからについて話す事にした。

『関にいた兵に聞いたところ、帰って来るなり”会都”へ使者を出したと』
『...援軍か』
『だと思われます』
『...まぁ、このまま戦争になったら我々の兵だけではこの関を守りきれんからな』

本当ならこの時点で直ぐにでも蕃族に使者を送ってこちらの手違いの謝罪とそれに伴う誠意を持って再び停戦の交渉ができないか試すのだが、何分今回敗戦を喫したのはあの洋班様だ。
仮に彼自身の汚名や恥、怒りをどうにかできたところで親である州牧様の面子もある。
どの道開戦は避けられない。
ならばもう、これからの戦争を前提に物事を考えなければならない。

『では、早速住民達への開戦の通達を...』
『待て凱雲』
『はい?』
『お前は夜中の戦闘で疲れただろう。今は休め』
『いえ、戦争が始まったばかりなのに整える物を整えていない内に休む訳にはいきません』
『いや、しかし...』
『それに豪統様こそ豪帯様の御様子を見にいかれてはいかがですか?その間にやれる事はやっておきますので』
『...いや、いい』
『いいのですか?』
『...あぁ』

確かに帯の事は心配ではあるが、それよりも私は私のやるべき事をしなければ。
関に住む民を守る者として。

『...そうですか。では私は街に看板を...』
『いや、お前は休め』
『...しかし』
『命令だ』
『...わかりました。では少し休養をいただきます』
『あぁ。まだ援軍が来るまでには時間はある。ゆっくり休め』
『ありがとうございます』

そう言うと凱雲は部屋を出ていった。

『...ふー』

それを確認してから私は一息をついた。

『...まさかこんな事になるとはな』

私は先程とはまた別の愚痴を漏らした。
今度は一人の親としてのだ。

本当なら今回の賊討伐の仕事を最後に帯との時間を増やすはずだったのだが、こんな状況では時間を増やすどころかまた内地へ帯を避難させなければいけなくなってしまった。
当然理由は帯の身を安じての事だ。
内政事なら幾らでも手伝わせるが、戦闘に関しては参加させるつもりはない。
だが、問題は果たしてそれを帯が素直に受け入れてくれるかどうか。
仮に帯が素直にそれを受け入れた所で結局また寂しい思いをさせてしまう事には変わりない。
それを思うと私の中で帯への罪悪感がふつふつと湧いて来ていた。

『仕方ない...か』

それに、今後はまた洋班様の直轄の元不甲斐無い父の姿を延々と晒す羽目になる。
それを一人の親としてこれ以上子供に見られたくはない。

『...はぁ』

私は再び一人になった部屋の中で溜息を零した。





『...というのが今回の全容でございます』
『...そうか』

私は重鎮達が居並ぶ広間の奥の玉座に腰を据える父に村襲撃の全容を述べた。

『...ふぅ』

それを聞いた父は空を仰ぎながら、その老体相応の一つ大きな溜息をついた。
私達はそれを静かに見届け次の言葉を待った。

『...何とも悲しい事じゃな』

そして父からそんな言葉が漏れた。
だが、ある一老人が日常で起きた出来事に溜息をついくそれとは全く違う、重臣達の居並ぶこの空間の奥で貫禄を漂わせながら王座に腰を据える人間の口から零れた言葉だ。
皆一様にそれの意味を理解していた。
そのせいか重臣達の間にも哀愁のような空気が流れていた。
皆その空気に酔いしれる。


『...して、奴宮の奴は何処におる?』

不意のその言葉に私は体を硬直させた。
だがそれは私だけじゃないだろう。
この広間に居並ぶ重鎮ら全員が体を強張らせただろう。

『国の大事だと言うのに奴は何処で油を売っておるのか』

まさか今後の方針より先に奴宮の件を突かれるとは。
だが、奴宮はここに居並ぶ重鎮達の中でも特に上席に居た人物だ。
当然と言えば当然なのだろうか。

父への報告の中では奴宮の死は伝えてはいない。
それどころか従軍についてすら触れてはいない。
理由としては一つに老体の父の身体を気遣っての事と、ただたんに
同じく老体の奴宮を従軍させ、更には前線に出した挙句に戦死させてしまった事を踏まえての事だ。
だが重鎮の中では既に防衛軍に奴宮が従軍していた事、そして敵将との一騎打ちの末に戦死した事は広まっていた。
勿論私も隠し通せるとは思ってはいないし、罪を免れようとは思っていなかった。
だが、国の方針すら決まらぬうちに父に倒れられでもしたら大変だと思っての事だった。

『奴宮は...』

私は意を固めぬままに口を開いた。
それを見て周りの視線が一気に私に集まる。
皆も不安なのだろう。
私が真実を今伝えるのか。
はたまた今はその真実を伏せるのか。
だが私は意を決した。

『奴宮は今回の防衛軍の従軍によって戦死しました』

一瞬で空気が凍る。
私は真実伝える事を選んだ。

きっと重鎮達は皆この事にさぞ肝を冷やしているに違いない。
だが、変に隠して後から死にましたではそれこそ父が可哀想だと思っての判断だ。
いや、父に対して失礼だと思ったからだ。

『...今なんと?』

父が聞き返してくる。

『奴宮は今回の防衛で勇敢にも敵将に挑み、そして戦死しました』
『...』

沈黙。
私は父の前で上奏の際に頭を垂れていたせいで父の表情は読み取れない。
だが、どんな顔をしているのかは想像はつく。
きっと複雑な気持ちに表情を歪ませているか、はたまた怒りに表情を歪ませているかのどちらかだろう。
前者であればこの後に早速北国に対しての具体的な対策が話し合われるだろう。
そして後者であれば...。

『...あいつは』

そして父の口から第一声が放たれた。
重臣達の緊張は一気に限界点へ達した。


『あいつは自分から従軍を申し出たのか?』

私はその言葉で思わず口元を歪ませた。
依然としてピリピリとした空気が流れているのにも関わらずにだ。

そう、私はその言葉で全てを察した。

『はい』

私は顔を上げてしっかりと答えた。

『...そうか』


作品名:烈戦記 作家名:語部館