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烈戦記

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第十話 〜捜索〜





星々が散らばる夜空。
辺りを覆うように生い茂る木々達。
本来なら静寂に包まれているはずのこの村は今兵士達の怒号と剣撃のぶつかり合う音で溢れかえっていた。

『同胞の仇!生きて逃がすな!』

小高い丘の上では月明かりを背に受ける騎馬武者、蕃族の将にして部族の王の第一子形道晃がその手をこちら側へ振りかざし、彼の後ろからは続々と兵士達がこの陣、または村跡地へ向かってなだれ込んでくる。

『前衛は何をしておるか!敵の突破を許すな!』

そしてそれを迎え撃つは零の属州、烈州本土より派兵された賊軍掃討軍部隊将、黄盛。
そして。

『蛮族なんぞさっさと蹴散らせ!』

掃討軍部隊長にして烈州州牧が第二子、洋班。
彼らがこの戦闘の引き金を引いた主謀者達だ。

戦闘は我々官軍側が占領した村に立て籠もり、それを蕃族側が攻める形になっている。
だが、官軍側は不意を突かれたという事もあり防衛線を整える前に戦闘が始まり、早くも蕃族の陣中への侵入を許してしまう。
そして今陣中は敵味方入り乱れての白兵戦になっている。
一度白兵戦となってしまえば将の用兵知識、経験よりもその兵士達自身の戦闘能力や訓練度、つまり"質"に頼る他は無いのだが…。

『はぁ…はぁ…』
『くっ…!』

周りの兵士達を見る限り、ここ連日の行軍や戦闘、軍事行動によって兵士達の疲労は限界にきているようだ。
そんな状態ではいくら兵士達の質が良くても敵に当たる事など到底できない。

…それに。

『うぐぁ!』
『ぐふ!』
『た、助けて!』

戦闘の様子を見る限り、その質でさえ蕃族に劣っているようだ。
これではいくら2000もの兵を集めた所で精々訓練経験の無い村々を襲うか、良くて同数の賊の集団と戦うので精一杯といったところか。

『おりゃ!』
『くっ!こいつら他の奴らとなんか違うぞ!』

だが、今は私が関から連れてきた800の兵が何とか陣中に散り散りになりながら蕃族の兵に対して抵抗はしている。
しかし、それもいつまで続くかわからない。
関軍800に寄せ集めの官軍2000で何とか兵数は多いものの、形道晃のいる丘からは今もなお次々と兵士達がその姿を現していて、これでは我が方の壊滅は時間の問題だ。

『どりゃぁ!』
『邪魔だぁ!』

ザシュッ

『ぐえッ!』

そんな戦闘の最中、私は陣内の敵味方を避けながら馬を走らせていた。

理由は一つ。
この陣内の何処かにいる豪帯様を見つけ出す為だ。

本来なら軍権が無くともこの壊滅の危機の中、全軍に撤退命令を出して我が部隊が殿を務める間に早々に官軍を引き上げさせる所だ。
だが、今は陣中のどこかに豪帯様がいる。
こんな状況で撤退を叫べば、兵士達は命令の混同で更に混乱し、皆一心不乱に逃げ惑うに決まっている。
そうなれば豪帯様を連れ帰らせるどころか、陣中に置き去りにされかねない。

そうなるくらいなら兵士達には悪いが、現状のまま私が豪帯様を陣中で見つけるまでの囮になってもらおう。
だが、きっと壊滅する前に兵士達には撤退命令が出てしまうはずだ。
洋班も黄盛も壊滅するまで気付かないなんてことは無いはず。
だから私はそれまでに何としても豪帯様を見つけ出さなければならない。

そうした結論が出た事によって私は敵味方が剣を交える中、ただ一騎誰とも剣を交えずにこうして陣中を駆け回っている。


『豪帯様!』

私は手近にある天幕を開く。

『げぇ!?』
『み、見つかった!?』
『…』

だが、そこに居たのは官軍の兵だった。
見たところこの混乱に乗じて盗みを働いているようだ。
…しかも味方の。

『で、出来心で…あれ?』
『こ、こないのか?』

命乞いをしている傍、もう一人は健気にも剣を私に向けて来る。
だが、こんな小物共に今は構っている暇は無い。
私はその天幕を後にした。





『…』

私は丘の上で敵陣内で行われている戦闘の様子を見ながら、関とのこれまでの関係を振り返っていた。

異質だ。
それが彼らと初めて会った時の印象だった。
私と彼らが出会ったのは八年前で、その頃の蕃族はまだ零とは対立しており、父と共に対北前線になっていたニ城にて零と対峙していた時だった。


"形道雲様!"
"なんだ?敵襲か?"
"い、いえ!何やら北国より使者が来ているとか…"
"…何?"

私達はこの報せに驚いていた。
元々蕃族と北の国々とは昔から対立の関係にあったからだ。
しかもその歴史はとても古くからで、零以前の烈王の時代、さらにはそれ以前にまで遡る。
それまでに何回かは外交も行われてきたようだが、それも記録に残るものは指を折る程度のものだった。
それだけに私達は戸惑った。

"ふむ…"
"ど、どうなさいますか?このまま使者を斬り捨てて…"
"いや、待て"

この時父上は伝令の提案に待ったをかけた。

"…父上、まさか北国からの使者に会われるのですか?"
"…あぁ"
"何故です!?彼ら北国との交渉など無意味です!現に今までだって使者のやり取りなど…"
"確かにそうだ。奴らとは遠い先祖の代より外交を断絶し、武力で領土を争って来た。だが、それは使者のやり取りがなかったからではないのか?"
"それは…"
"正直ワシにもわからん。今まで生きてきた中でこんな事はなかったからな。だが、断言はできない分今ここで会いもしないで使者を斬ってしまってもいいものだろうか"
"…"
"なに、心配するな晃よ。会ってみるだけ会ってみてその使者がふざけた事をぬかす様なら直様斬り捨てればよい話だ"
"父上がそう言うのでしたら…"

そして私達はその使者に会う事になるのだが…。

"旧陵陽関関主馬索より対蕃族防衛の任を引き継ぎました豪統にございます"


その使者は護衛ただ一人を従え、敵陣真っ只中で自分が敵国の前線拠点の大将だと名乗った。
それが彼ら豪統殿と凱雲だった。


当然私達は皆騒然とした。

"…ふむ。して、豪統殿。其方は何をしに参られた?まさかそれだけを伝えにわざわざ敵陣真っ只中に来たわけではあるまい"
"えぇ"

皆が固唾を飲む。
いったい彼らはこんな危険を犯してまで何を交渉しに来たのか。

"では、要件を聞こうか"
"単刀直入に言います。我々と同盟を組んでくださらぬか?"
"なに?"

それは誰もが予想だにしない事だった。

"ご、豪統様ッ…!。確か今回の使者は停戦の筈では…"

そしてそれは護衛に着いて来た凱雲すらも予想外だったようだ。

"お互い長い戦の中で勝敗はつかず、兵は疲弊し、国は安定せず、今や我らの陵陽関と貴方方のここニ城との間で悪戯に少数の兵をぶつけ合っているのが現状であります。そこで、今一度は積年の恨みを忘れ、互いに民の生活に目を向ける機会を作るのは如何でしょうか"

豪統殿の言い分は"このまま泥沼化した戦を続けても民の生活が良くなる訳では無いから戦を互いに止め、内政をしよう"との事だった。
確かにこれは我々にとっても都合がいい事だ。

昔からこの国では北への牽制用の軍事費に半ば習わしの様な感覚で国庫を割いて来たのが歴史の中である。
作品名:烈戦記 作家名:語部館