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烈戦記

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俺はもっと地方で野ばらしにされている賊共何万を根絶やし、そこの民草から感謝され、官士共からも一目置かれ、ついには都より将軍位を賜ると共に"皇宮校尉"として召し抱えられ、晴れて皇帝のお膝元で出世街道まっしぐら…。

それが俺の計画だった。
だが…。

『実際に討ち取った賊の規模はなんだ?たかだか100〜200そこらの小賊ではないか。そんなもの報告したところで笑われるのが落ちじゃないか』
『はぁ…確かに誇れた功績では有りませんが…』
『そこでだ!』
『?』

俺は手招きして黄盛をそばに寄せる。
きっとこれを聞けばこいつも驚くだろうよ。
ちょっとした期待に胸が膨らましながら屈んだ黄盛の耳元に顔を近ずける。

『…蕃族だ』
『蕃族?』

本当に察しの悪いやつだ。


『蕃族を俺らで根絶やすんだよ』
『な、なんと!?蕃族を我々で!?』

ドガッ!

『あだッ!?』
『声がでけえんだよ!』
『す、すみません!』

こいつは本当に頭に何か入ってるのか?
こっちがわざわざ声を小さくしているというのに…。

『し、しかし、良いのですか…?聞いた話しでは蕃族とは確か友好関係を結んでるだとか…』
『なーに気にするな。あんなもの豪統が蕃族に対抗できないもんだから勝手に言ってるだけさ。逆にそれを我々が打ち滅ぼしてみろ?それこそ我々は大手柄だ。それに本当に同盟を組んでるにしても相手は蛮族だ。何を気にする必要がある』
『しかし、豪統はそれを知って黙っているかどうか…』
『はぁー…。お前は本当に考え無い奴だな、黄盛。頭を使え頭を』
『…?』
『何も馬鹿正直に"出陣します"なんて伝える必要なんかねぇんだよ。なんたって俺は州牧の息子なんだぜ?それに俺達には俺達の兵2000がある。つまり…』
『豪統には伏せて蕃族を討ちにいくと?』
『そうだ!中々わかるようになったじゃねえか!』
『ははっ…。では、出陣は何時になさいますか?一応我々は明日の昼には関を出ると…』
『今からだ』
『は?』
『今から蕃族を潰しに行く』
『い、今からですが?』

黄盛が窓の外を見る。
既に日は山に隠れつつあった。

『夜に抜け出すという事ですか?』
『そうだ!それに夜の方が蕃族だって不意を突かれて大混乱!これぞ兵法!これぞ知将の戦い方だ!』
『それはいい作戦にございます!では早速準備をさせます!』
『あ!待て!』
『はい?』

俺は部屋から飛び出そうとする黄盛を呼び止めた。
多分しっかり言って置かないといけない気がするからな。

『いいか?誰にもバレないように慎重にな?』
『わかってございます!この黄盛にお任せを!』

お前だから心配してんだよ阿保。

そして黄盛は部屋を出て行った。

ククッ…。
夜が楽しみだ。






ガヤガヤッ

準備を急げッ!
さっさとせねばばれてしまうぞッ!

ガヤガヤッ


外が異様にうるさい。
こんな日も落ちた時間にいったい南門で黄盛は何をしているのだろうか。

僕は関に帰って来て直ぐに北門とは反対側の南門近くの宿に来ていた。
理由は二つ。
一つは自分の部屋には居たく無かったからだ。
今は本当に心の底から誰とも会いたくない。
それが父さんでも。
…しかし父さんはそんなこっちの気も知らないで慰めに来そうだったから。

『…はぁ』

父さんのいき過ぎた優しさにはたまに凄く嫌な思いをさせられる。

そして二つ目は洋班にできるだけ会わないためだ。
多分北門だと明日の帰り際には必ず洋班が通る。
それに、父さんが用意した洋班の部屋だってどこにあるかは知らないし、無いとは思うがもしかしたら北門周囲の良い宿を借りているかもしれない。
そうなら尚更出歩いている洋班に会いかねない。
もう洋班の顔も見たくない。
明日は腰抜けだの弱虫だの言われるだろうが、それでも洋班に会わなければそれでいい。

そして選んだのはこの南門だ。
こちら側は北門に比べて若干ではあるが、内陸側に位置する北門よりも高い宿屋は無く、どちらかと言うと蕃族と頻繁に交易している流れ商人が一時的に借りるような宿しかない。

…それに。


コンコンッ

(帯坊、飯は戸の前に置いて置くからな!腹減ったら食いな!)


そうなのだ。
ここの宿は昔からの付き合いで僕が父さんとケンカをした時や、父さんと凱雲が偶然出掛ける事になった時に良く来ていた場所なのだ。
そのせいもあってここの主人は僕が来ると何時も何も聞かずに宿に泊めてくれる。
そして今みたいにご飯も用意してくれる。

…あとでしっかりお礼言わなきゃな。

僕は枕に顔を沈ませながらそんな事を思った。
そして、少し宿主の好意に胸が暖かくなるが、直ぐに昼の事を思い出しその温もりは冷めた。

…今日死んだ人達の中にはこんなやり取りをしていた人達もいたんだろうな。

僕は自分と宿主との間に起きた些細なやり取りをあの村と重ねた。



穏やかな日常。
みんなが気を使い合いながらも気さくに、そして時には小さなケンカをしたりしながら流れていた日常。
その中で昼に宿に泊まりながら宿主とたわいも無い会話をしている二人。

…だが、そこに急に剣を持った兵士達が押し寄せて来て訳もわからずに斬り付けられてそして…。



ギュッ

より一層強く枕に顔を押し付けた。

僕はどうして止められなかったんだ。
あの場では反対意見を言えたのは兵士達より位の高い僕か黄盛しかいなかった。
だからこそ兵士達の、そして僕の意見をしっかり諦めずに主張し続けるべきだったんじゃないか?
…それが死ぬ事になっても。

でも僕は途中で諦めて黙認した。
最善を尽くしたか?
いや、最善なんて尽くしちゃいない。
それこそ死ぬ気で喰いついていればなんとかなったかもしれない。
それなのに僕は…。

もう涙も出ない。
何度も何度も同じ言葉を繰り返している内にいつの間にか涙は乾いていた。
そのせいか、異常に喉が乾いていた。
だが、自分の喉を潤す為に水を飲むのに抵抗を感じていた。
涙が出なくなった今、死んだ人達への謝罪の仕方がわからない。
泣く事で許されるとは思っていないが、それでも罪悪感を誰に示すでもなく感じているというのを示せなくなった今はこの乾きこそが泣く事に変わる死んだ人達への謝罪の仕方のような気がしていた。

死んだ人達はこの乾きすら感じる事はできない。
水を飲んだ時の生きている実感や
清々しさなんてもっての他だ。
そんなものを僕が感じる資格なんて無い。
僕は何十、何百の人殺しを黙認したんだ。

『…ごめんなさい』

枯れた喉から無気力にそんな言葉をひじりだした。



ガヤガヤッ

早くしろと言っているだろ鈍間共!

ガヤガヤッ
ガヤガヤッ


それにしても外は相変わらず煩いな。
あのデカブツはこんな夜中に兵士達に何を怒鳴り散らしているんだ。

僕は懺悔に懺悔を重ね疲れて、無気力に外の声に耳を傾ける。


ガヤガヤッ
ガヤガヤッ

貴様ら!兵士だろ!
戦前にそんなに無気力でどうするか!

ガヤガヤッ


ん?
戦?
戦とはなんだ?


ガヤガヤッ
ガヤガヤッ

ドンッ!


『…っち』

部屋の外から部屋の壁に向かって何かがぶつかる音がした。
まったく…なんて迷惑な。
作品名:烈戦記 作家名:語部館