小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

烈戦記

INDEX|30ページ/57ページ|

次のページ前のページ
 

急に洋班が黄盛の顔面に拳を叩き込む。
その一連の流れに僕はついていけずに固まった。

『な、何をなさいますか!?』
『てめぇが武官のくせに腑抜けてるから兵士も腑抜けになるんだろうが!腰いれろ!』
『は、はい!』

黄盛がすぐ折れてしまって、完全に村に攻め込む流れになった。

『ま、待ってください!』
『今度はなんだ!?』

僕はその流れを察してすかさず声をあげる。

『今目の前に見える村はどう見たって賊ではございません!現に門番がいながら正面の門は開け放たれているではありませんか!』
『…てめぇ、まだ自分の立場がわからねえのか』
『…ッ』

洋班が僕に馬を歩かせる。
殴られる。
そう思った瞬間、あの痛みが頭を過ぎり背中が凍った。
その間に洋班が馬を寄せてくる。
まずい。
僕は目を瞑った。

『…父さんがどうなってもいいのか?』
『…ッ』

だが予想とは裏腹に殴られる事は無く、変わりに耳元で囁かれる。
僕は一瞬殴られなかった事に安堵したが、すぐに言葉の意味を理解し絶望した。

『…ふんっ』

洋班が馬を返して兵士達の方へ向き直る。

『…待って』
『あ?』

だが、僕はやりきれない気持ちを抑えられず、最後に洋班の良心にかけて足掻いてみる。

『…子供だっているんだよ?』
『賊の子なんぞ知るか』

だが、返ってきた言葉は残酷な言葉だった。

…駄目なのか。


『お前ら!もう一度言う!これより荀山に住み着く賊を撃つ!従わねば死だ!いいか!』
『『おおー!』』
『よし、この洋班に続け!行くぞ!』
『『おおー!』』



洋班が僕の隣を駆けて行った。
そして次に隣を駆けて行ったのは
…。

『洋班様に続け!』

黄盛だった。
そして…。

オーッ!
ドドドドッ

それは無数の顔も知らない兵士達だった。
僕はその人の流れの中でただ一人その場で動きを止めていた。
皆僕を避けて走って行く。
僕はふと顔を上げてみる。

…だが目が合うものは無く、見る顔は全てやり切れない表情を浮かべていた。

『…なんで』

そんな言葉が漏れた。
みんな思っている事は同じだ。
この戦に何の意味があるのか。
この蹂躙劇に何の意味を見つけれるのか。

…無意味だ。
ただ上の人間の自己満足だ。
その為の戦。
そしてその自己満足を満たす為に自分達は目の前の平和な日常を踏み躙らねばならないのだ。

それがわかっていて…。
それをこれだけの人間がわかっていてどうして…。
彼らは人殺しをしに走るのか。

…簡単な事だ。
みんな自分の身が可愛いいんだ。
だからわかってはいても声があげられない。
上げても同調する人間がいなければ無意味だから。
そして同調すれば自分も巻き添えなのがわかっているから。
顔も知らない赤の他人の為に命は張れないんだ。

『…ふざけるなよ』

それが何もわからない子供でも。

『ふざけるなよ!!』

僕は耐え切れずに叫んだ。

だが、その声は2000の雑踏によって掻き消された。





村の兵士達が此方の異様な雰囲気に気付いたのか門に集まり始める。
…だがもう遅い。

ついにこの時が来た。

俺は走らせていた馬の上で期待と興奮によって張り裂けんばかりの胸の鼓動に苦しめられていた。

やっとこの名剣で人を割く瞬間が来た。
もう誰にも邪魔されない。
今だけは好きなだけ同じ人を斬る事ができる。

『…ふへ、ふへへへ』

自分でも気持ち悪くなるような笑が口元から零れる。
だが、そんな体裁なんてどうだっていい。
今は後少し先にある村の門が待ち遠しくて仕方がない。
門が近付くにつれて胸の動機が早まるのが自分でもわかった。

…あと少し。
…あと少し。


そしてその瞬間は訪れた。
門が目近に迫った所で衛兵の姿が確認できた。
今正に門を閉じようという所か。
だが、それが運の尽きだ。
俺の名剣の初めての獲物は今この瞬間に決まった。

閉まり掛けの門に素早く潜り込み、呆気にとらわれた衛兵を間合いに捉えた。

『我が名は洋班なりぃぃ!』

そして俺は剣を振り下ろした。





誰かの叫んだ声が聞こえた気がした。

僕は兵士達の波が去った後、ただ一人陵陽関を目指していた。
父さんから戦闘が始まったら戻ってこいと言われた。
だが、それ以前に僕はあの村で起きている惨劇を見守る事しかできないのに耐えられる自信がなかった。

『仕方無いんだ…どうしよも無いんだ…』

僕はずっと下を向きながらそんな事を呟いていた。
後ろは振り返らないようにしていた。
何故ならあののどかな景色が蹂躙されている風景を見てしまったらその景色を一緒忘れられない気がするからだ。

だがその意識すら今の聞こえる筈の無い叫び声に揺らいだ。

…本当に僕はこのまま関に戻ってもいいのか?
僕が今やっている事はなんだ?

僕はまたも無意味だとわかっていながらこの現場に自問自答を繰り返す。

…どうしよもない事。
だから僕に罪はない。
そう言って僕は現実から目を背けているんじゃないのか?
今僕が見ていない所で人が殺されている。
でも、そんな事を言えばこの大陸でどれだけの人間が殺されているかわかったもんじゃない。

…だから逃げるのか?
僕の知ってる所で人が殺されているのに。
僕が止められずに蹂躙されているあの村から。

僕の頭の中では"よせ""やめておけ"と誰ともわからない声で呟かれた。
だが、僕はそれでも村の方を振り返った。

村があった所からは黒煙が幾つか上がっているのが見えた。
もう、今戻っても遅いだろう。
頭の中で人々が蹂躙される光景が次々と浮かんでくる。

…だが、それでも僕は戻る事を選んだ。
僕が止められなかった責任を自分の目に焼き付けようと。





『…なんだこれ』

だが、そんなちっぽけな正義感では到底受け止めきれないような光景が村では広がっていた。

見渡せば家屋からは黒煙が上がり、火を吹き出していた。
そしてその家から逃げ出そうとしたであろう人の死体、勇敢にも戦おうとしたであろう人のズタズタな死体、今殺されたであろう死体、悶絶した表情の死体、壁に追い詰められた死体、ピクピクと痙攣する死体…集められて殺されたであろう子供達の死体。
そして僕の馬の下には赤ん坊を抱えた女の人が転がっていた。
…そして赤ん坊ごと貫いたであろう母親の身体の位置からドス黒い血が溢れていた。

『ウグッ!?』

そのあまりの生々しさに吐き気が込み上げてきた。
堪らず吐こうとしたが、目の前の死体に嘔吐物がかからないように精一杯身体を捻った。

『ウッゲェェェッ!!』

嘔吐物が馬の上から放たれてその勢いでビチャビチャと音を立てながら当たりを汚した。
馬は驚いたのかいななりを上げ、それをよけるように暴れだす。
僕はその急な馬の動きに振り落とされそうになるが、、意識が離れそうになるのを必死に耐えて静止させる。

『…はぁ…はぁ…』

なんとか落とされはしなかったものの、気持ち悪さに合わせて身体に重たい倦怠感を感じる。
そして目には苦しさで涙が溢れていたが、それによってボヤけた視界の中で色々な言葉が頭を巡った。

"僕が止めれなかったから"
"この人達はついさっきまで生きていた"
作品名:烈戦記 作家名:語部館