烈戦記
『さっきから妙にひっかかるんだよね。"誰が"寂しいって?』
『お前に決まってるだろ?帯。ついに耳"まで"いかれちまったか?』
周りの子達は"またか"というように僕らから離れていく。
だが気にしない。
『いっつも思ってるんだけどさ。お前って本当にガキだよな』
『がっガキだって!?お前に言われたくねぇよ!!バーカ!!』
カチンッ
『お前だってチビの癖に!!バーカ!!』
『んだとこの野郎!!』
『や、やめてよ二人とも!!』
子供達が止めに入る。
『帯ちゃん最後になるかもしれないのにケンカはやめてよ!!』
『だって!!こいつが最初に突っかかってきたんだぜ!?心配してやってんのに!!』
『誰が寂しがるかよ!!僕はお前と違ってもう大人なんだぞ!?お前が寂しいんだろ!!素直にそう言えよ!!』
『お、俺だって寂しくなんかないやい!!チービバーカガキガキ!!』
『んだと!?自分の年言ってみろこの野郎!!』
『やめてって!!』
それから少しギャーギャー騒いだ後。
『お前なんかどこにでも行っちまえ!!バーカ!!』
を最後に涙目になりながら彼は逃げて行った。
僕は子供三人に羽交い締めにされながら勝利を噛み締めていた。
『ふんっ、どうだ!!』
周りの子達からため息が漏れる。
『…帯ちゃん、大人気ないよ』
『だってあいつすぐ突っかかってくるもん』
『遼ちゃんも悪気がある訳じゃなくて、寂しいんだと思うよ?』
少し頭を冷やしてみる。
確かに大人気なかったかもしれない。
『…なんかごめん』
『ううん!!また村に来たら仲直りできるよ!!』
『その時は遼ちゃんも混ぜてまた遊ぼうね!!』
『お前ら…』
目尻が熱くなるのがわかった。
やはり僕自身も寂しいのかもしれない。
『お前らも仲良くやれよ!!』
『うん!!バイバイ!!』
『またね!!』
別れを告げて馬に近寄る。
そして気づいてしまった。
今自分がどういう状況なのかを。
『…ん?帯ちゃん?』
『どうしたの?』
冷や汗が背中を流れる。
そう、この子達はまだ僕が馬に乗れない事を知らないのだ。
馬に乗れなくて凱雲に乗せてもらう所なんてカッコ悪くて見せたくない。
しかも今感動の別れを告げたばかり。
それだけはどうしても避けねばならない。
僕は必死に頭をフル回転させた。
が、良い案が浮かばない。
万事休すである。
幸いあいつには見られてはいないが、恥は恥である。
僕は一息ついて覚悟を決めた。
『豪帯様、参りましょう』
『…うん。がい…あれ?』
僕が声をかけようとすると凱雲は既に馬を降りており、手綱を渡すとそそくさと歩き始めていた。
最初は意味がわからなかったが、意図を理解する。
…なんて頼もしいんだ!!
『じゃあな!!みんな!!』
そう言って僕は凱雲の後を追った。
その後少し歩いた辺りで馬に乗せてもらい、無事窮地を脱する事ができた。
感謝の気持ちを伝えると凱雲は"いえ"と簡素に答えた。
ただその後に言われたのは"もっと大人になりましょう、みっともない"との事だった。
県庁に着く。
そんなに離れた場所には無いのだか、子供達との一悶着あって既にお昼に差し掛かっていた。
しかし、逆にそれ以外道中では何も無く、もっと色々な人から別れを告げられるものだと思っていた分少し残念ではあった。
きっとみんな忙しいんだ。
そう自分に言い聞かせた。
コンコン
戸を叩くと中から返事が返ってくる。
そして中に入った。
『おぉ、豪帯か。それに凱雲様、お疲れ様です』
『いえ。そんな硬くなさらずに県長殿』
それから僕と県長さんは父さんと県長を変わった当初の事や顔を出した時の話、祭りの時の話などの昔話に花を咲かせた後、別れを告げて部屋を後にした。
『お父さんの所でも元気でな』
そう言ってもらえて嬉しかった。
県庁を出ると既に空が少し赤みがかっていた。
どうやら大分時間を潰してしまったようだ。
『大分時間かけちゃってごめんね』
『いえ、最後…ではございませんが、こんな時くらいは別れを噛み締めてもよろしいかと』
『ありがとう』
『はい』
本当なら危険な夜を避け、朝を待ってから村を出るのだが、僕らの村から関までは遠く、馬を走らせない事には一日で着ける位置には無い。
ようはどっちにしろ野宿はするので僕らは村の出口を目指した。
村の出口に着くと驚く事に人集りができていた。
『おぉ、みんな!!豪帯ちゃんが来たぞ!!』
その村人の一声で一斉に声があがる。
『豪帯ちゃん!!』
『待ってたぞ!!』
『早くこいよ!!』
『待ちくたびれたぞ!!』
僕は目頭がまた熱くなるのを感じた。
『豪帯様』
『うん…わかってる。おーい!!』
そう言って馬を走らせた。
『まったく何やってたんだよ』
『ごめんなさい。みんないつから?』
『お昼からよ。みんな豪帯ちゃんのお別れしないとねって事で仕事朝の内に終わらせてきてくれたのよ』
『みんな…』
思わず涙が出てしまった。
みんな父さんが県長の時から父さんを慕ってくれていて、その子供である僕の事も自分の子供のように接してくれていた。
父さんが関に移った後もそれは変わらず、叔父さんと一緒に大切にしてもらった。
言うなれば全員僕の家族みたいな人達だった。
『何泣いてんだよ!!男なら堂々としろよ!!』
『お父さんと会うんでしょ?』
『わかってる…わかってるよ。けど…』
涙が後から後から湧き上がってくる。
ひとしきり泣いた後、馬を降りてみんな一人一人に挨拶を済ませる。
ある人なんかはお土産なんかもくれた。
本当に大切に思われているのだと感じた。
『それじゃあ行ってくるよ』
『あっちでも元気でね』
『たまには顔出せよ 』
『うん 』
そう言うと隣でずっと待っててくれていた凱雲に目をやる。
それを察して凱雲が先に歩き始める。
気を効かせてくれて既に僕が馬から降りた辺りから馬を降りてくれていたようだ。
『それじゃ』
凱雲に続いて自分も馬を連れて歩き始める。
『帯!!』
別れの空気の中、突然後ろから聞き慣れた子供の声で名前を呼ばれて振り返る。
『お前…』
そこにいたのは昼に喧嘩別れしてしまったあの子がいた。
『…』
『…』
お互い言葉が出ない。
別れ際とはいえ、喧嘩してまだ一日も経っていない。
どちらも気まずい感じである。
『遼ちゃん!!』
子供の後ろ、僕から見て正面から声がかかる。
『最後だよ!!』
『頑張って!!』
昼に会ったあの子達だった。
必死に目の前の少年を励ます。
『…その』
ついに言葉がで始める。
『わ、悪かったよ』
その一言で周りが湧き立った。
『や、やったー!!』
『遼ちゃんやればできるじゃん!!』
『う、うっせーよ!!阿呆!!』
そんな子供達のやり取りを周りの村人達は微笑ましく見ている。
『べ、別にまた遊んでやってもいいんだからな!?またいつでも来たかったら…』
『遼、ありがとうね』
『っ…!!』
『お、おい!!』
急に抱きつかれ、慌ててしまったが、涙を啜る音が聞こえて平静さを取り戻す。
『…また来るからな』