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烈戦記

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第八話 〜初陣〜







『豪帯!!』

夕暮れに照らされた砂塵、乾いた空気。
青々とした木々が左右に生い茂るものの人々の行列からはどんよりとした雰囲気が漂っている。
そんな中で一際目立つ程の張りを持った声が僕の名を呼ぶ。

『荀山はまだか!』

これで何度目になるのだろうか。
彼洋班は関を出てからというもの度々に同じ質問を短い間隔で聞いてくる。
そして僕もまた、億劫な気持ちを抑えて同じ答えを口に出す。

『荀山はまだです』
『さっきから貴様は同じ事しか言ってねえじゃねえか!え!?』

そりゃそうだ。
最後に質問された時の場所は後ろを振り返れば見えるか見えないかの位置にあるのだ。
それでは僕も同じ答えを返さざるおえない。

『…今日中に着く事はないと思います』

耐え兼ねて僕は洋班も凱雲から聞いたであろう事実を言ってみる。

『そんな事聞いてねえよ!あとどれくらいあるんだ!』
『…今でまだ半分はあるかと』
『は!?お前どれだけ移動したのかわかってんのか!?半分なわけあるか!!』

本当に勘弁してほしい。
関を出る前に一応荀山の記してある地図を父さんからもらったが、それ以前に仮にもこの地の官士なら荀山のだいたいの位置くらい知っておいて欲しいものだ。
僕も人の事は言えないが、荀山の名前くらいは知っていた。
…まぁ、そのおかげで幸か不幸かか僕らは荀山の麓を目指す事になったのだが。

…荀山の麓の村では今何をしている頃なのだろうか。
日ももう落ちるからきっと食事をとっている頃か。
まさか翌日には兵の一団が現れるなんて知りもせずに…。

心が痛む。

凱雲に必要だからと言われ、父さんは泣いていた。
多くを救う為の犠牲だと。
そして僕が地図を貰った時父さんに"お前は戦闘が始まったら帰ってこい"と。
きっと村を兵団が襲う所を見せたくないのだろう。
僕だって見たくない。

…でも本当にそれでいいのだろうか。
無実の人々が殺されるのを知っててそれを見逃す事。

手綱を持つ腕に力が篭る。

いいわけがない。
でもだからってどうすればいい?
本当は違うんだって叫びたい。
でも僕が叫けべば叫ぶ程周りが不幸になるだけで何も変わらない。
僕には今の現状を変える力なんてない。
父さんが泣きながら決断した事だ。
僕に何かできるわけが無いんだ。

僕は何度めかになる自問自答にまた終止符をうった。

『聞いてんのか!!』

ガツッ

『ウッ!』

後頭部に鈍い痛みが走る。
何がおこった。
いつの間にか隣まで迫っていた声の方を向く。
だが、目の前は黒い何かに覆われた。

ガッ

『うぁ!』

自分の顔面に強い痛みを感じると共に僕は勢いで馬から落ちた。
だが、今ので何と無く洋班に何かで殴られたのはわかった。
僕は血のでる鼻を抑えながら洋班の方を向いた。
すると洋班は自分の馬から降りてこちらに向かってきていた。
手には柄に収まったままの剣が握られていた。
きっとこれで殴られたんだろう。
何故か僕は迫り来る洋班に恐怖を感じるどころか頭の中で冷静に状況分析をしていた。

洋班が目の前に来て胸ぐらを掴む。

『てめぇ、俺に向かって無視とはいい度胸じゃねえか』
『…すみません』
『あん!?』

しまった。
関を出てからは洋班に気を使う意味でできるだけ丁寧な敬語を使うようにしていたが、急な事で油断していたのか不貞腐れてしまった。
その感情の籠らない返事をされて腹をたてたのか、洋班はまた手に持った柄入りの剣を振り上げる。
…当たり前か。
僕は潔く殴られる準備をした。

ドカッ

『グッ』

今度は頭に強い痛みを感じ、そのまま地面に突っ伏した。
頭が冷やっとするのを感じた。
痛みを堪えながら殴られた場所を触ってみる。

するとそれと同時にツーっと顔に何かが垂れて来た。
そこで何と無く今どうなってるのかが予想できた。
一応違和感のある頭を触った手を見てみる。
すると手には赤い血がべったりとついていた。

だが、まじまじと見ている暇を洋班は与えてくれなかった。
突っ伏したままの僕の首元を横から片手で洋班が引っ張りあげようとする。
だが、完全に脱力した僕の体を片手では持ち上げられないと知るともう片方の手から剣を離し、両手で襟元を掴みあげた。

『おいおい、この程度でへばんじゃねえよ。なあ?』

駄目だ。
頭から血が出てる事を確認した瞬間、何もかもがどうでもよくなった。
ただただ頭に浮かぶのは次頭に強い衝撃を受けたら自分の頭はどうなってしまうのか。
また、今頭はひんやりとした感覚があるが、表面の頭皮が傷ついただけなのか、それともどこか割れてしまったのか。
そんな事が頭をぐるぐるしていた。

『おい!聞いてんのか!』

洋班が拳を振り上げる。
あ、駄目かもしれない。
そう思った僕はその拳を虚ろな目で見ていた。

『…』
『…っち』

だが、洋班は拳を崩し僕を地面に放り出した。
投げ出された体を反射で腕が地面を捉えて支える。

『ウグッ…!』

だが、その反動が伝わり何とも言えない鈍い痛みが頭に広がる。
頭がさらにひやりとして気持ち悪くなる。
…これは本当にまずい怪我をしたのかな。
そんな事をふと思った。

『洋班様、もうよろしいのですか?』
『ふんっ。すぐへばりやがってつまらねえ…。まだ親父の方が殴りがいがあるのによ』

何かよくわからないがよかった。
今の状況で殴られでもしたら本当にどうなってたかわからない。
僕はふと安堵した。

『洋班様』
『あん?なんだ黄盛』
『もう日も落ちる頃に御座います。ここらで野営の準備をしませんか?』
『…ふん。すぐに準備をしろ』
『ははっ!』

すると黄盛は兵士達に向き直る。

『おい兵士共!!野営の準備に取りかかれ!!』

するとやっとかと言わんばかりにみな重い足を必死に動かしながら動き始める。
だが、その間誰も僕を見ない。
多分、何か手を貸せば自分達にも被害がくるのがわかっているのだろう。
みんな僕の周りを避けていく。

…こっちの方が気が楽でいいのかな。

『おい』

後ろから洋班の声がした。
僕は何も考えずにそちらの方を振り返る。

だが、その直後頭全体に激痛が走り僕は気を失った。





あぁ…なんて酷い世の中なんだ。
今偶然見てしまったが、頭から血を流してフラフラになっていた小僧の頭に向かって洋班様が最後の一撃と言わんばかりに柄入りの剣を振り払われた。
…何もそこまでしなくても。

『ふんっ』

洋班様は満足そうにその場を離れていった。
…小僧は突っ伏したまま全然動かない。

『…おい。あんま見てると目つけられるぞ』

一緒に幕を張っていた向かいの兵士に声をかけられる。

『しかし、あんまりじゃないか?…あの小僧、多分20もいってないんじゃないか』
『ならお前が代わりになるか?』
『い、いや、何もそこまで』
『ならあまり関わらん方がええ』
『…』

確かにそうだ。
ワシらにできる事なんて何もありゃしない。
それに、人に同情してやれる余裕なんてワシらには無いんじゃ。
…許せ、小僧。

だが、ふと関での出来事を思い出す。
確かあの小僧の親のおかげで他はともかくワシはうまい水にありつけた。
それがどれだけうまかった事か…。
作品名:烈戦記 作家名:語部館