小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

烈戦記

INDEX|25ページ/57ページ|

次のページ前のページ
 

『…なんでございましょう』
『お前、準備の前にここでこの黄盛と一騎打ちしろ』

…なんだって?

『…急に何を言われるか』
『いやいや!ただ純粋にお前とこの黄盛のどちらが強いのかを知っておきたくてな!』
『…』

この関で1番腕が立っていたのは凱雲で、その事が洋班の行動を抑止していた。
だからこそ洋班はそれが面白くなくて、この黄盛と凱雲をぶつけたいんだろう。
黄盛が勝ちさえすれば今度こそ自分が優位に立てると思って…。

だが、凱雲が負けるはずがない。
この関に来る時の賊の一件で既に凱雲の強さは目の当たりにしてる。
確かにこの黄盛という男も凄みはあるが、あの夜の光景を思い出すと凱雲が負けている姿なんて想像できない。

多分思惑に気付いている凱雲はどうするのだろう。

『凱雲…わかってはいると思うが、このような無用な事を受ける必要は』
『よろしい。お相手いたそう』
『凱雲!』
『そうだ!そうじゃなくちゃな!おい!北門前を空けろ!』

父さんが止めるのを聞かずに了承する。
凱雲良く言った!
父さんには悪いが、僕としては洋班達が鼻を明かされるところを見てみたい。

『豪統様、ご心配なさらずに』
『…むむ』

それから僕らは急遽北門前から兵士達をどけて場所を作った。





『勝負は一本だ。二人ともわかったな?』
『異存はござらん』
『ワシもじゃ!』

二人はその中央で対峙した。

『黄盛!』

洋班が叫ぶ。

『…恥をかかせてくれるなよ?』
『お任せください洋班様!徐城一のこの黄盛の怪力!特とご覧あれ!』

何が徐城一だ。
こっちは父さんと一緒に戦時代を生き抜いた凱雲だぞ。
お前みたいな目立ちたがりなんかに負けるか!

『凱雲の強さ見せてやれ!』

思わず叫んでしまう。

『…』

だが返事は返ってこない。
きっと手合せに集中したいのだろう。
そう思い僕は、はやる気持ちを自分の中に押し込めた。

『始め!』

そして洋班の掛け声と共に二人の手合せが始まった。





結果は呆気ないものだった。
洋班の掛け声の元、黄盛が凱雲に飛び掛かった。

二人の棍がぶつかり合う。

そして両者は数合打ち合った後、対峙側の棍を弾く形で勝負がついた。



だが、宙を舞った棍は凱雲の得物だった。





『…え』

僕は言葉を失った。
今目の前で起きたでき事が信じられなかった。
あの夜に賊を得物事真っ二つに斬り裂き、返り血を浴びても尚凛として月明かりに照らされながらその場を支配していた不動の偉丈夫は今、荒々しいく髪を乱した余所者の猪武者を前に尻餅を付き首元に棍を突きつけられていた。

僕の中で何かが崩れた。



『しょ、勝負あり!勝負あり!黄盛!良くやった!』
『ふ、ふはははは!当然にござる!』
『…』

『…なんで』

そんな言葉が漏れてしまった。

『見たか!?見たか豪統!!俺のの黄盛が勝ったぞ!!』
『…ええ。そのようで』
『所詮凱雲なんぞ見た目ばかりの田舎武官じゃないか!はははははっ!』
『…』

父さんを挟んだ隣では洋班が興奮しながら父さんに好き勝手言っている。

悔しい…。
今まで頼りにしていた人間を目の前で貶される。
しかも…それに反論する事もできないなんて。

不意に洋班と目が合う。

『豪帯!』
『…ッ』
『貴様らの頼みの綱が俺の黄盛に負けたぞ!どうだ!?悔しいか!?え!?』
『クッ…!』

飛び掛かりそうになるのを拳を握りながら必死に堪える。
目のやり場を無くして咄嗟に凱雲の方を向く。

『…お見事にございます。完敗でござる』
『はっはっはっ!気にするな気にするな!お主も十分に強いが相手が悪かっただけじゃ!』

見なきゃよかった。
凱雲は黄盛に頭を落としていた。

『はははっ!おい聞いたか!?"完敗"だとよ!はははははっ!』
『ッ!』
『た、帯!』

僕は耐え切れなくて走り出していた。





『帯…』
『はははっ!あいつ耐え切れなくて逃げ出しおったぞ!』

帯はそのまま街の中へ走っていった。

『…すまん』
『豪統様』

後ろから凱雲に呼ばれる。

『申し訳ございません。負けてしまいました』
『よい。良くやってくれた』
『…お気づきでしたか』
『何十年そなたの主をやっていると思っとるんじゃ?』
『豪統様にはかないません。…豪帯様には?』
『今は伝えるべきじゃない』
『わかりました』

『お前ら何をこそこそしてんだ!出陣準備だ!』
『直ちに!』

これでいい。
今本当の事を伝えれば今後も凱雲を頼みに問題を起こしてしまいかねん。
この一件が終わるまで耐えてくれ。





『黄盛!』
『ここに!』
『兵に伝達しろ!目標は荀山麓の賊だ!』
『了解にござ…ん?荀山の麓でございますか?』
『あぁ!そうだ!何か不満か?』
『い、いえ!滅相もございません!ただ、私はてっきり蕃族を狩るものと…』
『いずれ狩る!その前に荀山だ!』
『…しかし、あの様な場所に賊とは』
『?何かおかしいのか?』
『はい、荀山であればまだわかりますが…確か麓には村しか無く、賊が身を隠す場所などはなかった気が…』

あいつら…。

『豪統!』

準備に向かう豪統を呼び止める。

『?なんでございましょう?案内役でしたらこちらですぐに…』
『本当に荀山麓に賊はおるのか?』
『それは…』

豪統は言葉をつまらす。
まさか俺を騙そうとしたのか?

『貴様…まさかこの俺に嘘をついたのか?』
『い、いえ!そんなことは決して!』
『なら何故貴様は』
『賊は確かにございます』

またあの忌まわしい声が聞こえた。
だが、今になってはもう恐るるに足らん。
何と言っても俺には今黄盛がいる。

『凱雲…確かこの話をしたのも貴様だったな?』
『はい』
『では聞こうか。もし麓に賊がいなかった場合、どうやって責任をとる?』
『私の首を差し出しましょう』
『何?』
『が、凱雲!』

賊がいるのは確かなのか。
…ならなんで豪統は言葉を濁らす?
まさか賊に情があるとは言わんだろ。
ならなんだ…。

『では賊がいなかった場合はこの黄盛が直々に貴様の首を』
『まて』

だがまぁ、この後におよんで理由なんかは知ったことじゃない。
だがな、凱雲。
考えてみれば、この関に来てからは貴様の上手いように言いくるめられてばかりだ。
それが気に食わん。
その仏頂面…引っぺがしてやる。


『お前のような死にたがりの首なんて価値ねぇよ』
『…では何がお望みか』
『そうだな…。なら豪帯でどうだ?』
『!?』
『な、何を言われますか!』

豪統は何時もながらの反応だが、凱雲…貴様の驚き顔はなんて愉快なんだ。
思わず口元が歪む。

『そうだそうだ、案内役ついでに奴を出せ。もし賊がいなければ即刻首を刎ねる』
『洋班様!息子に手をかけるのだけはお許し下さい!まだ息子はこの関に来たばかりで満足に判断できる状況じゃ』
『何慌ててんだ?嘘偽りさえなければ息子の首など刎ねんわ』
『しかし…ッ!?』

黄盛が再び豪統に歩み寄る。
だが、その間に凱雲が二人の間に割って入る。
そして凱雲の表情はいつの間にか驚きから怒りへと変わっていた。
黄盛、やってしまえ。

『…凱雲殿。お主は何をしておる』
作品名:烈戦記 作家名:語部館