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烈戦記

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『だから何度も言うようにここに上役が…』
『ちょっとごめん!』
『あ?なんだ帯坊か!すまんがちょっと後にしてくれ!』
『ん?帯坊ってあの豪統様の息子かい?なら丁度いい!ちょっとこいつらをどかしてくれないか!?』
『え?』

今なんて?
どかす?
急に話を振られるとは思わず間抜けな声を出してしまった。

『お、お前何を言って』
『私等商人は信用が命なんじゃ!しかし、こいつらは私等が築き上げた信用を崩そうとしやがる!だから頼む!今回の仕事はもの凄く大切なんじゃ!こいつらをどけてくれ!』
『え、えっと』
『帯坊!こいつの話は聞かんでええ!どっか行っててくれ!』
『あんたここの責任者の息子だろ!?なんとかしてくれよ!』
『ちょ、ちょっと考えさせて!』
『帯坊!』
『さすが豪統様の息子じゃ!話がわかる!おいっみんな!!豪統様の息子がどうにかしてくれるってよ!!』
『え?え?ちょっ、ちょっと!!』

今の商人の大声で周りでも揉めていた商人達がこぞって集まり始める。
え、なにこれ。
まずい。
これじゃあ明らかに僕がこの問題の責任者じゃないか。
しかも、僕はこの関に来たばかりでここの規則や商人達との関係なんて何一つ聞かされてない。
そんな僕が責任者?
無理に決まってるだろ!

だが、ここでもしも軽々しく発言してしまえばそれこそ収集がつかなくなる事は目に見えてる。
考えろ!
考えろ!

『ま、まずい事になっちまった…ッ!た、帯坊!凱雲様を呼んで来るから絶対早まるなよ!』
『あ、ま、待って!』

そういうと兵士は僕の静止を聞く前に商人達の中に消えてしまった。
…嘘でしょ。



既に商人達が充分に集まってしまい、今か今かと僕の発言を待っている。
だが、僕は本当は責任者なんかじゃない。
それに責任者だと言ったわけでもない。
…だが。

『おい坊主!まだか!?こっちも急いでるんだよ!』
『早くしてくれよ!』

既にこの商人達の間では僕はこの問題を解決できる人間だと思われている。
それに唯一の頼みである兵士は兵士で凱雲を呼びに行ってしまったっきり全然帰ってこない。

…もうそろそろこの商人達も限界だ。
周りからはヒシヒシと焦りや怒りが感じとれた。
それに僕自身も30〜50はいるんじゃないかという程の商人達に囲まれて気がきじゃない。

『なぁ、息子さんよ』

最初の商人が声をかけてくる。

『な、何?』
『わしらはな?さっきも言ったように信用が命なんじゃ。信用がなきゃわしらは飯も食えんのじゃ。それにな?お前のお父さんとわしらは長い付き合いじゃ。ようは仲間のようはもんじゃ。だから頼む。豪統様の意思をわしらに示してくれ!』

流石は商人だ。
弁一つで生きているだけあってこちらが揺れそうな言葉を次々に言ってくる。
しかも、多分ここにいる人達はみんな僕が決定権を持っていないのも知っているだろう。
でも、それでも責任者の息子が一言黒と言ってしまえばそれが自分達の交渉を有利に進めれる事を知っている。
だからこそ焦りながらもじっと我慢してこの場に留まりながら僕を囲み続けている。

『なぁ、時間が無いんじゃ。豪統様はわしらを仲間とは思っておらんのか?』

だが、もう限界のようだ。
だから僕はこの場の中心にいる以上何かしら決断をしなければいけない。
多分本当の事を言ってもこの商人達は逃がしてくれないだろう。
理由は簡単だ。
なんと言っても僕は今ここに集まる商人達最大の切り札になり得る交渉要素だからだ。
だから決断せずにこのまま本当の責任者を待てば、商人達は僕の発言を引き出す為に何かしら仕掛けてくるはずだ。
…だから迫られた以上もう黙り続ける事はできない。


それに僕は父さんの力になるって決めたんだ。

やってやる。


『みんな聞いて!!』

大声をあげる。
みんな待ちに待ったと言わんばかりに期待の篭った眼差しを僕に向けて静まりかえる。
もう後には引けない。


『今回の件についてもう一度説明します!』
『それはもう聞いた!早く結論を言ってくれよ!どくのか!?どかないのか!?』
『そうだそうだ!』
『早くしろ!』
『…ッ』

一瞬怯みそうになる。
怖い。
みんな怒ってる。
だけど駄目だ!
僕が逃げちゃ駄目なんだ!

『いい加減にしてよ!!』
『『!?』』

『あんたらは交渉で飯を食ってる人間なんだろ!?だったら意見言う前に人の話を聞け!時間がなくても!!』
『…』

よし、黙った。
ここからが本場だ。
今なら僕の話がみんなに伝わる。
だがもしここで話が途切れたり噛んでしまえばもう終わりだ。

僕は一息ついて話始めた。

『まず、今回北門の出入りを禁止する理由は州牧様の命によりこの地に残った賊の残党を掃討するのが目的で徐城より派兵された2000の兵を受け入れる為です!』
『ちょっと待った!』

な、なんだ。
何かおかしな事言ったのか?

『この周辺の賊は昔に粗方片付いたはずだ!それに賊が残っているというのも初耳だぞ!?』
『それは近年徐城の太守様が独自で周辺調査をした結果森に潜んでいた賊の一団を見つけたとの事だ!』

勢いで嘘をついてしまった。
だが、昨日の父さんと凱雲の話を聞いていると、本当の事を話せばさらにこの場が混乱しそうだった。
だから多分これでいいはずだ。

全員が全員納得しているわけでは無いが続けた。

『そして本来ならこのような情報は事前に住民や関係者に報告しなければいけないところをこちらの不手際で伝達できなかった事をまずお詫びします!』

そう言って周りに頭を下げた。

『すみませんでしたで許されるかよ!』
『そ、そうだ!』
『それならわしらの商いはどうすりゃいいんじゃ!』

『ですが!!』

周りが沸騰しかけた所を大声で静止する。

『僕の父は必死にその受け入れを拒みました!それも州牧様の使者にです!』
『…ッ!?』

周りがざわめき始める。
また嘘をついた。
確かに父さんは洋班に対して反対はしたが、それは違う内容についてだ。
だが、僕は拒んだ理由を述べていない。
そうすると僕は嘘はついて…。

いや、僕は勘違いする事を知っていて嘘をついたんだ。
言い訳はできない。
でも、この嘘だけは突き通さなければいけない。
後で商人の方々に謝りに回ろう。
だからどうか今だけは許して下さい。

『…父さんは今とても大変な立場にいます。自分よりも立場が上な人間が来てしまって命令一つ出てしまえばみなさんを守りたくても守ってあげれません。そりゃ一時的に、また一回だけなら上に背いてでもみなさんを守れます。…だけど僕の父さんはそれよりもこれからもみなさんを守る為にある時は頭を下げ、ある時は恨まれ役を買ったりしながら必死に毎日戦ってます。…だからどうかみなさん』


『今回の件、どうか僕達に協力してください!!お願いします!!』
『?!』

そう言って僕は膝をついて頭を地面に着けた。

この言葉は紛れもない本当の言葉で、最後の方なんて交渉を度外視した僕の我儘だ。

やはり僕には荷が重かったのかもしれない。
結局最後の最後で自分の感情が前に出てしまい公私を混同させてしまった。

…僕は餓鬼だ。

ごめん。

父さん。
作品名:烈戦記 作家名:語部館