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身代わりの王妃~続・何度でも、あなたに恋をする~

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 いっそう王の腰遣いが速くなったかと思うと、熱い飛沫が春花の内奥で弾け散った。生暖かい液体が複雑に入り組んだ内壁にじんわりと滲み込んでゆくのが気持ち悪い。
 王は耳許で?すぐに気持ちよくなるから?と囁き続けたけれど、結局、最後まで気持ち良くはならなかった。春花にとっては痛くて気持ち悪いだけの辛い時間だったのだ。
 前夜に胸や蜜壺を弄られたときに感じた、得体の知れないあのむずがゆいような感覚は、ついに訪れることはなく終わった。
 それから時間をおいて、彼女はもう一度、王に抱かれた。痛いから止めてと泣いて訴えても、所詮は無駄なことだった。
 私、これからどうなるのかしら。ついにこの男に純潔を踏みにじられ、身体を奪われてしまった。
 深い喪失感に囚われながら、春花は烈しい荒淫の末に意識を失った。

 隠れ家に入ったのは漢陽の空が茜色に染まり始める時間であったはずなのに、出てきたときは既に夜の帳に町並が沈んでいた。一体、どれほどの長い刻を春花を抱いて過ごしたのだろうか。
 ぐったりとした少女の裸体を自らの上衣で包み込み、ユンは抱き上げた。春花を抱いたまま隠れ家を出ると、気づいた黄内官が素早く寄ってくる。
「宮殿にお戻りになりますか?」
 黄内官とはもう長い付き合いになるが、すべてを心得た彼は隠れ家で何があったかを知っているはずなのに、何も言わず態度にも出さない。
 が、流石にこの歳で家出した妻を王宮に連れ帰るのも待てずにここで抱いたと知られるのは恥ずかしかった。良い歳をして、あまりにも自制心がきかなさすぎると自分でも思っているからだ。
 黄内官が背後を振り向いて合図を送ると、下働きの男たちが輿を担いで現れる。次いで次々に随所に潜んでいた護衛の内官たちが集まってきた。
 黄内官が輿の正面扉を開け、ユンは春花を抱いたまま輿に乗り込む。その前に黄内官から手渡された大きな布で更に妻の身体を顔まで見えないようにすっぽりと包み込んだのは、春花の姿をできるだけ人眼に触れさせたくはないからだ。 
 たとえ去勢した内官とはいえ、若い男であることに変わりはない。
―抱かれた後の春花は怖ろしく艶っぽいからな。
 そんなことを考えてしまうのは、自分がやはり若い妻に完全にイカレしまっているからだろう。春花を連れ戻すのに輿を用意させるのはともかく、黄内官がこのような布まで用意周到に持参していたのは、王が何をするつもりか理解していたに違いない―とは流石に気恥ずかしくて思いたくなかった。
 輿がゆっくりと動き出す。彼は泣き濡れたまま気を失った春花の身体をしっかりと抱き、髪を愛おしげに撫でた。しかし、心は一向に弾まなかった。
 何度も痛みを訴える少女の身体を彼は押さえつけ無情に刺し貫いた。これで春花の身体は確かに我が物にしたかもしれないが、心は余計に離れてしまった。最悪の場合、二度と自分たちが心を通わせることはないかもしれない。
 前妻の中殿とは心は通っていなかったけれど、憎み合ってまではなかった。明姫亡き後は、もう一度妻とやり直しても良いとさえ思ったほどなのだ。
 判っていたことではないか。春花を無理に抱いてしまえば、こうなることは。たとえ名実ともに夫婦となり得たとしても、妻の心を永遠に失うかもしれないとは覚悟していたはずだ。
 しかし、心のどこかでかすかな希望も持っていた。もしや春花も素直に自分に抱かれ、身体だけでなく心もひらいてくれるのではないか、と。が、それは彼の手前勝手な考えにすぎなかったのだ。
 もう、遅すぎるのか。何をどうしても、自分たちは夫婦として解り合えることはないのか。
 どこかから地虫の啼く声がひそやかに聞こえてくる。何故か、それが無性に哀しみをかきたてるようだ。
 愛しい女をやっと手に入れたというのに、心は少しも浮き立たない。ユンの口から長い吐息が洩れ、彼もまた疲れたように眼を閉じた。

 哀しみの果て

 先刻からずっとユンは弱り切った顔で座っていた。国王のおなりと聞いても、春花は布団から出てこようとはしなかった。頭まですっぽりと布団を被って顔を出しもしない。
 町の隠れ家から春花を連れ帰ってから丸一が経過し、翌々日になっていた。流石にその日は彼も疲れたし、春花の心情を考えれば対面は先延ばしにした方が良いのは判っていた。
「中殿」
 ユンは静かな声音で語りかけた。布団に潜り込んだ春花がこの声を聞いているのは確実だ。
「私が隠れ家でそなたに告げたのは真実だ。そなたが王妃ゆえ抱いたのも確かだし、また私のそなたへの抑えきれぬ恋情ゆえでもあった。そのどちらも嘘ではない。私は男だから、男としての愛し方しかできない。そなたがそれを納得して受け容れられぬと言っても、私はいつまでもそなたを求めることになるだろう」
 控えめな表現ではあるが、つまりは春花がどれほど拒んだとしても抱くという意思表示である。
「実家の義父上もそなたの一日も早い懐妊を待ちわびているのではないか。そなたもいつまでも子どもではないのだ。嫁いで人の妻になったからには、少しは大人にならなければならない」
 ユンはそれだけ言うと、さっと立ち上がった。
 扉を開け、隣室に控えていた金尚宮に告げた。
「今宵は中殿の許で過ごす。ゆえに、夜伽が務められるように支度をさせておくように」
 わざと春花にも聞こえるように声を大きくした。そのまま踵を返し大股で部屋を横切り、中宮殿を出た。

―今宵は中殿の許で過ごす。
 そのひと言は春花の心を鋭く刺し貫いた。
 国王殿下がわざわざ足を運んで下さるのは畏れ多いことなのにと狼狽える金尚宮を尻目に、幾ら諭されても布団から出なかった。
 なのに、王は一方的に言いたいことだけ言うと、さっさと大殿に帰ってしまった。   今、金尚宮は蒼白な顔で春花の説得を続けていた。
「中殿さま、そのように泣いてばかりおられは、お身体に障ります。お食事もずっと召し上がらないままでは、真にご病気になってしまわれます」
「帰りたいの、こんな怖いところにはいたくない。実家に帰らせて」
 春花はすすり泣きながら繰り返した。自分でも子どもじみているとは承知している。でも、本当にこんな怖い場所にはいたくない。
 あの男は今夜もまたここに来て、私を抱くと言った。昨日は一日中、あの男がいつ来るかと恐怖に震えて過ごしていたのに、来なかった。これで、もう私のことを忘れてくれたのかと―一度自分のものにしてしまったら、つまらない小娘だと飽きてしまったのだと安心していたのに。
 ?帰りたい?と繰り返してみても、聞き届けられるはずもなく、金尚宮を困らせるばかりだとも知っていた。
 それでも、もう、いや。二度と繰り返したくない。あんな辛い想いをするほどなら、死んだ方がマシだ。
 泣きじゃくる春花を見て、金尚宮は深い息を吐いた。金尚宮が幾ら宥めても、若い王妃はいっかな泣き止む風はなかった。その中、低い寝息が聞こえ始めたので、彼女は静かに寝所を出て扉を閉めた。
 泣きながら眠ってしまうとは、本当にまだ幼くていらっしゃるのだと微苦笑がひとりでに浮かぶ。十七歳というのは人妻になるのにけして早すぎはしない。金尚宮は直宗の前の中殿も彼が熱愛した寵妃和嬪も知っている。