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身代わりの王妃~続・何度でも、あなたに恋をする~

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 そして、その痛みの中に時折、何か別の妖しい感覚―例えていうなら、むずがゆいような、その場所をもっと滅茶苦茶にかき回して欲しいような感じがある。それはけして痛いとか、気持ち悪いとかいうのは別次元のものだった。
「春花の身体は嫌らしいな。初めて男に触れられたのに、こんなにはしたなく蜜を溢れさせて」
 王の掠れた声が耳許で囁いた。普段聞く彼の声とはまったく違う。欲情に濡れた声音とともに耳朶を熱い舌で舐められると、嫌悪感よりも何か別の感覚―下腹部で感じているのと似たような得体の知れないものを感じた。
 どうやら、蜜壺から溢れ出しているものは、あまり良いものではないようだ。王の言葉で?はしたない?と指摘され、春花は恥ずかしさのあまり、顔が熱くなった。
 指がいっそう奥深く挿し入れられるとともに、王がまた乳首に吸いついた。クチュクチュという乳房を吸われる音と、蜜壺を数本の指でかき回される水音が混じり合い、何とも淫靡な音が寝所に響く。
 それが自分から出る音だと判るだけに、恥ずかしさに消えてしまいたいとさえ思った。
 しかし、次第にそんなことを考えている余裕もないほど、彼女は追い上げられていった。
「うっ、ああっ、あ」
 自分のものとは信じたくないような艶めかしい喘ぎ声がひっきりなしに零れ落ち、胸の先や下腹部で感じていた、あの妖しい感覚はどんどん強くなる。
 隘路を行き来して絶えまなく抜き差ししていた指が突然、最奥のある場所を突いた。その瞬間、春花の身体がこれまでになく大きく跳ねた。
「あっ、あうっ」
 眼の裏が真っ白になり、閃光がチカチカと走る。しかも、王は無情にも同じ場所を何度でも責め立ててきた。
「あ? ああっ」
 あまりにも強い快感がたて続けに襲ってきて、このままでは快楽地獄に焼きつくされて気が狂ってしまうのではないかとから思う。
「いやっ、お願い。そこを触らないで」
 訴えれば訴えるほど、男の指は同じ箇所を執拗に突いてくる。更に胸を揉まれ、きつく乳首を吸われながら奥壁の感じやすい場所を刺激されため、これまで以上の強い快感がその場所からせり上がってくる。
 ひときわまばゆい閃光が閃き、極彩色の光が瞼で円を描きながら瞬いては消えていった。
「本当にいやらしい身体だな。これで生娘とは信じがたい。何度、気をやったか判っている?」
 侮蔑するような響きに、春花の羞恥心も我慢も限界に来た。眼の周囲が熱くなり、涙の雫が溢れた。
「私」
 何か言おうとしても言葉にならず、春花は低い嗚咽を洩らした。
「うっ、えっ、えっ」
 好きで、こんな状態になったわけではない。大体、誰が自分をこんな風にしたのか。あれほど嫌だと何度も訴えたのに。
 と、熱い手が春花の手を握り、そっと顔から外した。
「泣かなくても良い。これからは、もっと気持ちよくなるから」
「え?」
 春花は眼を見開いた。
「これで終わりではないの?」
「まだまだ。そなたは何度も気をやったかもしれないが、私はまだ一度も達していない。色っぽいそなたの乱れ様を見ていたら、もう我慢がきかないほどになってしまった。これからはそなたが私を満足させる番だ」
優しい声音と表情でさらりと怖ろしいことを言う。その双眸に淫蕩な光が閃いている。それは先刻、彼が春花の身体に陵辱の限りを尽くしていたときに見たものと酷く似ていた。
 訳が判らないなりに、何か怖ろしいことをさせられるのだとは漠然と判る。
「私、これ以上はいやです。もう、何もしたくない」
 春花は懸命に訴えた。
「何を言うのだ。あれだけ悦がっておいて、まだ、そんな聞き分けのない子どものようなことを言うのか。そなたはその身に王の子を宿す使命を帯びているのであろう」
 さあ、と、再び身体を褥に押し倒されそうになり、春花は烈しく首を振った。
「いや、絶対にいや」
 ありったけの力で王を突き飛ばし、相手が手を放した隙に急いで、その腕から逃れ出た。
 寝所を走り、扉に手をかけたところで背後から抱きすくめられる。
「いやっ、放して。放して」
 春花は王を振り払い、扉を開けて居間にまろび出た。そこからは走って入り口の扉に縋り付く。
「金尚宮、金尚宮」
 必死で呼ぶと、外から扉が開いた。
「中殿さま」
 廊下に控えていた金尚宮を初め、数人の女官たちが愕きに顔を強ばらせた。
 彼女たちが驚愕するのも無理はない。春花は全裸で何も纏っていなかった。加えて、白い身体中には梅の花びらのような徴がはっきりと刻み込まれていた。
「助けて。お願い、私、いやなの」
 機転を利かせた金尚宮が自分の上衣を脱ぎ、春花の肩から羽織らせた。その上衣で春花の身体を包みながら、金尚宮は問いかけた。
「中殿さま、殿下は」
「私なら、ここだ」
 王が苦虫を噛みつぶしたような顔で立っていた。夜着がかなり乱れているが、こちらは特に眼のやり場に困るといったことはない。
 だが、春花の一糸纏わぬ姿や身体中に散った愛撫の跡だけで、室内で何が行われていたかは十分想像できた。
「中殿、こっちに来なさい」
 王が手招きしただけで、春花は悲鳴を上げた。金尚宮の背後に隠れて身を縮めた。
「中殿! こちらへ来るのだ」
 普段は声を荒げることのない王が怒鳴った。かなり苛立っているらしい。
「いや、いやいや」
 春花はうわ言のように繰り返し、金尚宮の肩に顔を伏せて泣き出した。国王の命に従わないなど前代未聞、この場で切り捨てられても文句は言えない立場ではあるけれど、これだけ怯えて泣きじゃくる王妃を王に引き渡すことはできなかった。
 金尚宮は春花を背後に庇うように立ち、頭を深々と下げた。
「殿下、畏れながら、今宵は中殿さまはこれ以上、殿下のお相手は無理かと拝察仕ります」
「そなたの意見を聞いてはいない。中殿をこちらに渡せばそれで良いのだ」
 王が心もち声をやわらげた。
「私と一緒に来なさい。怖いことはもうしないから」
 嘘だと、春花は思った。この人は平気で嘘をつく。初めての夜には何もしないし、娘として扱うと言ったのに、こんな酷いことをするのだもの。
 二人だけになったら、この男はまた豹変して飢えた獣が捕らえた獲物を屠るように私にに襲いかかってくるに違いない。春花は無意識の中に金尚宮の着物を掴んでいた。
「中殿、そなたは尚宮や女官たちの前で私にこれ以上、恥をかかせるのか?」
 冷えた声音とは裏腹に瞳は憑かれたような熱い烈しさを孕んでいる。
―怖い。
 春花はまた身体が震え出すのを憶えた。
 金尚宮が何か言おうとしたその時、庭を走ってくる人影が見えた。
「殿下、大変でございます」
 大殿筆頭内官の黄内官であった。
「どうしたのだ」
 王が仏頂面で訊ねるのに、黄内官は血の気の引いた顔で口早に言った。
「和寿翁主さまが大変なのです」
「和寿が? 一体、何が起きた?」
 和寿翁主というのは直宗の第五王女、四人いる王女の末姫である。仁嬪との間では第三子になる。今年、三歳になると聞いていた。
「急に引きつけを起こされたとのことで、急遽、内医院の医官が治療に当たっております。急ぎ仁嬪さまのおん許にお行き下さいませ」