魔獣物語〈序章〉
カナの袈裟斬りの斬撃を躱し、魔人が僅かによろめいた瞬間、魔人の足元が弾けた。
ダンは先程、魔人の眼前に放った爆発の魔法を、今度は魔人の足元に使ったのである。
魔人は堪らず、仰向けにひっくり返った。
絶好のチャンスである。
カナは魔人の首筋めがけて、剣を突き刺した。
ところが、驚くべき事に、カナはそれでも魔人を仕留められなかった。
剣は魔人の首筋の横…地面に突き刺さっていた。
「カナ、お前…。」
ダンは信じられない気持ちで、その光景を見つめていた。
「ダン…。」
ダンのほうに振り返ったカナの顔は、今にも泣き出しそうだった。
ダンは、ようやくわかった。何故、カナが魔人を斬れないのか。
カナは魔人に馬乗りの体勢になっていた。魔人は左腕を伸ばし、カナの頭を片手で鷲掴みにした。
地面に剣が突き刺さったままになっていたので、逃げるのが遅れた…というわけではなく、カナはもう半分泣きべそをかいていて、逃げるどころではなかったのである。
魔人は上半身だけ起こした体勢で、まるで手毬でも放るかのように、カナの体を、ダンの後ろにあった大木の太い幹に向かって投げつけた。
ドォンという轟音が響き、大木が揺れ、叩き付けられたカナは、そのまま木の根元に倒れ伏した。