魔獣物語〈序章〉
村人達は、喚声をあげた。
しかし、ダンは驚き、叱責の声をとばした。
「何やってるんだ、カナ!」
「ごめん…。」
カナは肩で息をしながら、小さな声で答えた。
魔人は、腕を切断されたくらいで死にはしない。今のタイミングなら、首を刎ねる事も心臓を刺し貫く事もできたはずだ。しかし、何故かカナはそうしなかった。
(何やってるんだ、カナ。)
ダンは心の中でもう一度、先程と同じ台詞を繰り返した。
一刻も早くこの魔人を倒し、父達に加勢に行かなければならないのに。
だが、今は口論している場合ではない。
片腕を斬り落とされた怒りからか、魔人はカナに激しい攻撃を仕掛けてきた。残された左腕を振り回し、カナを追い詰める。
身の軽いカナは、その攻撃をすべて躱していたが、魔人の攻撃は一撃一撃が重い。カナに躱された魔人の拳がぶち当たった大岩は、いとも簡単に砕け散った。
まともに食らえば、一発で致命傷である。
最初にカナを吹っ飛ばした魔人の攻撃は、うまい具合に鞘で受け止めたが、実はその時のカナのダメージも、ダンが当初、考えていたより深刻だった。
肋骨に連結している肋軟骨が損傷していたのである。