魔獣物語〈序章〉
「カナぁぁー!」
タミナが、悲痛な声で我が子の名を叫んだ。
だが、ダンは動じなかった。
カナは咄嗟に体をひねり、魔人の攻撃を背負っていた鉄製の鞘で受け止めていた。地面に叩き付けられる時に受け身をとったのも、確認できた。
大した怪我はしていないはずである。
吹っ飛ばされたカナにさらに攻撃をしかけようとする魔人に向かって、ダンは次の魔法を繰り出した。
強烈な光をフラッシュのようにたいて、目くらましをかけたのである。
「ぬぉ!」
「きゃぁー!」
魔人だけではなく、その場にいた村人達まで目がくらんでしまった。突然、視界を奪われた村人達は、パニックに陥っているが、この際、それは二の次である。
ダンは当然、その瞬間だけは目を閉じて自分の目を保護していたし、カナが顔を伏せているのも確認していたから、カナの目も無事なはずだ。
目くらましの魔法は、鎌鼬の魔法に比べて、ずっと初歩的で簡単な魔法なのだが、こちらの方が魔人には効果があったようである。
『高等魔法を無闇に使うより、簡単な魔法を自在に使いこなす方が、はるかに有効』
ダンは父の教えを初めて実戦で実感していた。
「グォォォー!」
魔人が目を押さえて仰け反った。
その最大の好機に、カナは魔人の右腕を肩から切り落とした。
目くらましの効果が解け、視力の回復した村人達が最初に目にした光景は、片腕を失くし、ほとばしる鮮血を押さえてうめく魔人の姿であった。