魔獣物語〈序章〉
魔術師が敵を攪乱して、戦士が仕留める。または、戦士の攻撃を魔術師が補佐する。
戦士と魔術師が共に戦う際の基本戦術である。戦闘に長けた魔術師ほど、自らの攻撃魔法で敵を仕留めるより、戦士のサポート役に徹しようとする。
相手が強敵であればあるほど、この戦法は有効であり、戦士にとっても魔術師にとっても、より安全なのだ。
カナは、ダンの魔法攻撃による魔人へのダメージの大小は、はなから気にしていなかった。ただ、自分が攻撃するための隙が出来さえすれば良いのだ。
カナは、父に習った基本の構えから、攻撃に移った。
自分より大きな敵に出会った時は、重心を低くし、中段に構えた剣をやや斜め後ろに引いて、飛び上がりやすい体勢をとれと。
その教えを忠実に守り、そして、飛び掛かった。
大きく跳躍し、魔人の左の首筋を狙って、剣を振り下ろす。
しかし、誤算だったのは、ダンの鎌鼬では、魔人に隙を作ることさえ出来ていなかったという点だ。
魔人はカナの攻撃に慌てる事もなく、カナが剣を振り下ろすよりも先に、左腕でカナの小さな体を薙ぎ払った。
カナは、凄まじい勢いで吹っ飛ばされた。