魔獣物語〈序章〉
だが、ダンは死んでいなかった。
ほんの一瞬、ほんの数秒間、気を失っていただけである。
次にダンが目にしたのは、魔人の背中から突き出た1本の剣であった。
魔人がゆっくりと、前のめりに倒れていく。
そうして、魔人が地面に倒れ伏すと、魔人の陰に隠れて見えなかった1人の小さな少女の姿が、ダンの目に映った。
カナである。
意識を取り戻したカナは、ダンが火炎魔法を発動させるのを見た。それはダンにとって、最後の切り札とも言える魔法である。
しかし、魔人はそれでも倒れなかった。
ダンに死の影が迫っている。
そう感じたカナは、駆け出していた。
地面に刺さったままになっていた自分の剣を取り戻し、魔人の攻撃から逃げようともしないダンを蹴り飛ばして助け、魔人の腹に剣を突き立てた。
今度は迷わなかった。
目一杯の力で魔人の腹部に突き立てられた剣は、魔人の体を貫通していた。
時が止まったように、誰一人動こうとしなかった。
倒れた魔人の体が、ビクビクと痙攣するのみである。