気まぐれ、神様、文芸同好会
決着がつくのを待つ的なやり方である。無論こっちが優勢ならいいが相手優勢だとだんだん晒し者になるのが欠点。
そんなとき、なぜか連次が俺にボールを投げてきた。明らかに手加減をしていたので俺でも取ることが出来た。さあどうしよう。俺が相手
に投げても逆にキャッチされ、投げ返されたのではなんだかこっちを危険に晒すみたいで無能っぽい。やはり外野に投げるべきかと思い見ると
有川さんが妙にぴょんぴょん跳ねてアピールをしている。なんだか妙に愛らしいというか和むので彼女にパスした。ただ友人の想い人に
こういう感覚を持つのは気が引けるというか修羅場になりかねないのですぐに心から消し去ることを選択した。
時間が経ってみると相手は二人になっていた。こっちは俺を含めて六人だが俺は戦力外なので五人。大体二倍の優勢である。こういうのは
残り二人が強者だったりして終わるのに時間がかかったりする。
ただ残りの二人は強者ではなく俺みたいに結構避けるタイプなのかこっちが攻撃する機会が多かった。やはりこの期に及んでも石口さんは隙
あれば俺を倒そうとこっちにロックオンしてくるが、周りに妙に思われるのでやめてほしい。いややめて。
その後、相手方は残り一人になったが最後まで残るだけあって一筋縄ではゆかぬ相手である。向こうが投げて、こっちの内野が取って相手に
向かって投げて、また相手がこっちの内野に向けて投げて・・・
外野に投げるという選択肢は彼にはないようであった。って考察してたらまた俺に向かって投げてきやがる。ギリギリで大仰なモーションで
避ける。避けることに関しては一線級を自認してもいいかもしれない。
昼休み終わりの予鈴の鐘がなった。
「楽しかったー」
という声がそこらで聞こえるが俺はあんまり・・・まあ避けるだけだから仕方ないね。
練習試合は我が七組の勝利で終わり、参加した七組の者どもはやや興奮した面持ちであった。
「本番でも勝つぞ」
「おー」
などと勇ましいことを言っている。俺としては適当に負けてほしい。なぜなら、勝つとそれだけ試合をこなさなければならないからだ。
「お疲れ様」
有川さんがニコニコとした声色で声を掛けてくる。
「ああ、うん。疲れたね」
などと適当な返事を返したが内心俺に声をかけてほしくなかった。なぜ連次の方に最初に行かないんだ。連次から見たら変に思われるだろう。
「なかなかうまく避けるじゃないか、本番も期待してるぞ」
連次が言ってくるので
「勝ち負け関係なく参加することに意義がある」
とどこかの格言の孫引きのような発言を得意気にしてみせた。
「何言ってんだい、さっさと教室に戻るぞ、授業始まっちゃうぞ。あと今日の放課後文芸同好会忘れんなよ」
他の生徒もさっさと各々の教室に戻っている。連次が有川さんに話しかけているのを見た。その二人を見てなんとも言えない気持ちになったが
忘れよう。駄目だ。
午後からは化学の実験だった。薬品を使う実験なので結構(節度を守った範囲で)皆はしゃいでいた。その喧騒に紛れるように同じ班の連次が突然
話してきた。
「なぁ、昼休みの試合の時執拗に狙ってた石口さんいたじゃん」
「うん」
「なんか恨みでも買っていたのか?」
「うーん?図書委員の関係で知ってるだけだよ。ネタバレすると文芸同好会四人目な」
「マジかよ、結構仲いいのか?」
「いや別にただ知ってるだけだよ。部活入ってないみたいだから誘ったらああいいよ的な。想像しているような仲ではないよ」
「ふーん」
とりあえず納得してくれたようだ。それでいい。実験のデーターをささっとと取って片付ける。器具を片づけごっちゃがえす中、ふと有川さんの
姿を見る。目が合うと、笑ってくれた。本当に素直で可愛い子だと思う。でもそれは俺は思っていはいけないことだろうな。思わず目をそらす。
次は数学だった。特に変わったことはなく終わる。
さて、放課後。石口さんは国語科準備室前で待ってるはず。有川さんが俺と連次に声を掛け、三人で国語科準備室で行く。
「おすすめの小説とかない?」
などと連次が有川さんに話しかけている。ちょっとベタ過ぎないかい。でもそれぐらいが連次には似合っているかもしれない。
「うーん人の趣味によるけど貸してあげるよ。どんなのがいいの?」
と有川さんは返事をする。
「そうだな〜」
と連次は言葉を詰まらせているので、
「連次には推理小説がいいんじゃないか?」
と適当に俺が助け船を出す。なんで推理小説なんて言葉が出たのか自分でもよくわからない。推理小説なんて読んだことがない。それぐらい適当な
助け舟だったということ。
「推理小説はあまりというか興味が無いのでお姉ちゃんに聞いておくね」
と有川さんは返答した。確かに推理小説というか純文学系が好きそうな雰囲気をしている。石口さんをどうやって紹介するべきなのか頭のなかで検討
していた。検討しつつ歩いていたらもう着いてしまった。俺の思考が遅かったのか。
石口さんの方が先についていた。国語科準備室の前でちょこんと体育座りをしていた。俺が何か言おうとしていたら、先に有川さんが声を上げた。
「あ、四人目の方ね」
もう連次から話は行っていたのか。同性ならではの気安さがその声色に見て取れた。それなら話ははやいかもしれない。
「うん、そう」
石口さんは無機質っぽい声で返す。二人がうまくいくか少し不安を覚える。
「じゃあ、とりあえず中へ」
有川さんが国語科準備室の鍵を開け、我ら三人を中へ促す。いい具合に太陽の光が射し、いかにも文学的な雰囲気を醸し抱いている部屋だなと思った。
文学者気取りなわけではない。
机は長方形で短辺が窓側に位置している。有川さんが奥の窓側の席に座る。向かい合って石口さんが座り、長辺にあたるところに俺と連次が向かい合って
座る格好になる。まず最初に口を開いたのは有川さんだった。
「えー、まずは私からでいいのかな、一応部長だし。私は一年七組の有川由梨。こちらは四瀬連次君。そちらは杉原千秋君。でここは多分知っていると思う
けど文芸同好会。活動内容は文芸に関することならなんでも。と行きたいところだけどそうも行かないことは半分は分かっているつもり」
といいつつ俺と連次の顔を見ている。なんだ、よくわかってるじゃないか。なんでこの人はそれをわかって文芸同好会なんか作ったのか不思議で聞いてみたく
なってきたな。
いきなり外からえらく威勢のよい声がした。なんなんだいきなり。
「おい、四瀬、またサボってるのか、出てこい」
「あっやべちょっと今日は駄目だわ」
連次が脱兎のごとく逃げ出す。勝手に野球部を抜け出してきたのか?
ということで有川さんと石口さんと俺と三人だけになった。場がシーンとなる。連次が居ないのに有川さんと同じところにいるのは心苦しいというか心が落ち着かない感じがする。
まず俺はひとつの疑問を口にして問い詰める。
「肝心なことだが、どうして有川さんは文芸同好会を復活させようとしているんだ?俺と連次はそういうのに興味が無いのに引っ張ってきたのはなぜ?他に適当な人はいなかっ
たのか?」
作品名:気まぐれ、神様、文芸同好会 作家名:白にんじん