気まぐれ、神様、文芸同好会
「俺ですらわかるぐらいだから推して知るべしなのかもしれんね」
「あーあー」
「そういえば俺が今日言った心当たりの人、OKだそうだ」
「ふーん、そいつは男か女かどっちだ?」
「女だけど?」
「なんだできてんのか?どういう関係なんだ?」
「どういうって・・・図書委員が同じで話があったってだけだよ」
「怪しいなぁ・・・」
「いつからそんな恋愛脳になったの君?」
「俺は昔からこうだ」
「ふーん、連次は文芸部いや、文芸同好会で何するの?」
「あんまり考えてない」
「脳まで筋肉になってるのかよ、そんなんで大丈夫か?」
「うるせえ、彼女がいない奴に言われたくないな、でもさ」
「ん?」
「その、ごめんな、勝手なことして」
「別にいいよ。どうせ暇なんだし」
「推理小説でも読もうかな」
「うーんその面で推理はないだろう、漫画がせいぜいだ」
「失礼なやつだ。俺も小説でも書くかな」
「うーんそうか、小説のシナリオ考えるよりも有川さんを落とすシナリオのほうが重要だと思うけど」
「うまいこと言った気分になってるんじゃねえよ」
「でも野球部どうするの?」
「だから毎日文芸同好会には行かれない」
・・・俺が有川さんをとるなという無言の圧力なのだろう、多分。こういう時はなんて返せばいいんだろうか。ヘンに返すとなんだかいらぬ誤解をうけそうでなんだか気まずくなりそうだ。だから
受け流すしか無い。じゃあ俺は毎日行くからなんていうと多分地雷を踏むだろう。
「じゃあ野球部辞めたらいいのでは」
「そんなわけにはいかん」
「というか文芸同好会って毎日営業するつもり?」
「らしいよ」
「じゃあ明日例の人連れて行くから」
「おっそうか、じゃあな」
電話は終わる。石口さんに明日放課後国語科準備室前で待っててというメールを送っておく。まもなくわかったというメールが返ってくる。これでいい。
親父は帰ってこない。最近は仕事が多いようだ。不景気なのだろうか。親父とは微妙な関係である。もともと親父は子どもとの接し方がわからなかったフシが今考えるとあると思う。
人間というものがわからない。この世は一体なんなのか。人間と人間がひしめいている。ごちゃごちゃして混沌としている。その中で人間は生きていき、そして年をとって
死んでいく。十数年生きてきたが結局人間というものはなんなのか。生きていき死ぬだけの存在なのか。それだけでは虚しいだろう。でも動物も植物も永遠に生きることは出来ない。
生まれることは死への執行猶予なのだ。いつか執行される。この世は人間、いや先人が作り、今こうやって生まれた人間が継承して発展させていく。発展させていった先にはなにがあるのか。
この世の果て、人間の真実は、今の自分には答えが見つからない。もとより答えがあるから得をするといったたぐいの疑問ではない。答えは人の数だけあるのかもしれない。
明日は石口さんを文芸同好会に紹介しなければならない。どうしようと考えると憂鬱だ。そうやって夜は過ぎていく。
今日朝学校にいくと、なんだかクラスマッチの練習しようぜ的な話がチラホラでていた。なんか一年六組と昼休みドッジボールやろ
うみたいな話だった。誰が言い始めたのか詳しいことは知らない。逃げたかったが連次と有川さんに引っ張られた。体育系は嫌いで仕
方がない。性というか自分の波長に合わない。
なんでも昼休みにやるんだとか。ボールはどこから調達してきたかは知らない。うちのクラスの実行委員と隣の六組の実行委員が仲
よいらしい。身内の駄々は身内だけにしてほしい。
ルールはこうらしい。女共は外野固定。男共は初期位置が内野で当たると外、内野をゼロにしたほうが勝ち。
俺はボールを弾く能力もないしキャッチする能力もないので避けるしか無いという無理ゲーである。最後まで一人残ったら晒し者
である。ただバレーボールとかサッカーでもてんで駄目なので所詮晒し者の道化である。運動系においては道化を演じる以外に方法はない。
今日も定型的な授業が始まる。常に退屈だ。毎日を繰り返す。たとえ進学してどこに就職するとしても慣れてしまえば同じ日々を繰り返す
ようになるんだろうなとうんざりする。でもだれだってそうでしょう。俺には生きがいというか冒険が必要なのか?
もし冒険家とかになってアマゾンとかアフリカを横断するとか、傭兵として紛争地帯を渡り歩くとかいうなら、「毎日」というものの「質」
は変わってくるのかもしれない。でも俺にはそういうのは無理な気がする。
一歩前に出る気がないのならぐだぐだ退屈といっても仕方がない。延々と毎日を過ごす。それが大人になったということだろうか。
わかったような大人には小学生の頃にはなりたくないなと漠然と思っていたが、実際年をとるに連れてそうなった自分に苦笑する。
午前中の授業は終わり、購買のパンを貪りつつ連次と話す。
「なんだって昼休みにやるんだ、こんなことを」
不機嫌そうに俺は言う、というかあたかもガキのように不機嫌であった。
「いいじゃん少々」
「よくねえよ」
「まぁがんばれよ」
パンを食い終わると、ぞろぞろとドッジボールの参加者共が集まりだし盛り上がり始めた。俺もその末席に加わらんとする。
「よーしやるからには勝とうぜ」
連次がノリよくそうやって言っているのを見て連次らしいなと思った。そうして皆、俺も含むは校庭に出て、それぞれが位置についた。
俺は専守防衛を旨とすることを考えた。
最初はこっち側の攻撃になったようだ。こっちの男が投げる。ちょうど足元狙いでうまい。が、ちゃっかりキャッチされ、あっけなく
投げ返される、って俺を狙ってるじゃないか。たまらず避けるが、避けた弾をだれも取らないものだから外野が取ってまたこっちに投げ
てくる。女が投げてくるボールですら取らない、というか取れないのでまた避ける。ちょうどボールに勢いがなくバウンドした形になったので
連次が取ってまた相手側に投げるというモーションを半分までしながら、外野、有川さんの方に投げる。で、彼女はあっけなく外野付近に
いた男をあっさり仕留めてしまった。そうして虚しく役割を終えて転がるボールに、連次は素早く駆け寄りキャッチし、近くの相手方に手当たり
次第という感じで投げつけ、仕留める。二人の連携プレイが光る。
今気づいたのだが、外野に石口さんがいた。あの方も六組だから不思議はない。あまりこういう競技には似合わないが。無理やり入れられた
のだろうか。いや人の心配より自分の心配をした方がいい状況である。
外野は女で力がなく仕留められないというのが自覚していると見え、だいたい内野にパスしていた。ただ石口さんはボールを取るたびに
無駄にロックオンしたミサイルのごとく俺を狙っていた。力がなく速度が出ていなかったので避けるのは容易であった。知って相手だからといっ
て無駄に狙うのはやめてほしい。いっそ投げつけてやりたい。そんな大人気ないことはやらないけど。
七組の勇士(俺除く)の活躍により七組優位で進む。俺のところには案外ボールは来なかった。俺の戦略は存在感をなくして空気的になり、
作品名:気まぐれ、神様、文芸同好会 作家名:白にんじん