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白にんじん
白にんじん
novelistID. 46309
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気まぐれ、神様、文芸同好会

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 淡々とした声が自分の心にしんしんと染みていくのがわかった。下から嫌な雰囲気が漂ってきて気持ち悪くなってくる。明らかに異空間だ。今までの空間とは何かが決定的に違う。
心臓が鼓動を早める。
 屋上から下の階に降りた。通りがかる知らぬ生徒が、こちらを見るなり近づいてきて
「ああ、神様、私をお救いください」
などという。まるで狂ってる。よく観察するとそれは俺に対してではなく石口さんに向けてのことだと気がついた。でも狂ってるのには違いない。まるで宗教団体ではないか。でも
うちは元来無宗教なので詳しくは知らない。
「言ったでしょ?」
 石口さんはこっちを見て囁いたが、目は怪しげな光を湛えていた。おいおいうそだろ。こんなのありえないし、どんな世界なんだここは。
「おい、なんのつもりだ!わけわかんねえよ!おい!」
 驚き、興奮、不安で頭のなかがおかしくなってるし、声色もおかしくなっている。
 石口さんはそいつらをはねのけ、首と視線で目の前の視聴覚室の中を見てみろと言っている。
 少しビビりつつものぞいてみる。
 それは異様な光景であった。全員が起立して空中のある一点を凝視していた。俺も慌てて見るが、そこにはなにもない。一体何なんだ。そこには連次もいた。
 連次の机までゆっくりと歩いて行く。周りの連中もなんの反応も示さず、まるで笑えない冗談のようだ、そうであって欲しいのだがそれは裏切られる。時間の流れというものが感じられない。
ありえない。連次も当然、ある一点を凝視している
「おい、連次、遊びはそこまでだぞ」
 なんの反応もない。
「おい、なんなんだ、どうしたんだ?」
 更に強い口調になってきた。しかし連次はまるで聞こえていないかのようだった。それはまるで人形に意志を持てと辛抱強く言い聞かせているかのようであった。
 石口さんは澄ました声で言った。
「私は、本物の、神様です」
 うそでしょ・・・・。いやまず状況を頭のなかで整理してみる。とりあえず石口さんが生徒全員を狂わせると宣言したあと、目の前が一瞬明るくなって、きっと何かが起こった。それから石口さんを
神と崇める生徒を見たし、全員が起立して空中のある一点を凝視している場面も見た。十分客観的に見ると意味不明で支離滅裂な状況下である。やはりそういうことなのか。とにかくみんなおかしいこと
になっていることは確かだ。そうだ。下の階に降りて状況を探ろう。
「もうわけわからんが、とりあえず、下、下に行くからな!」
 石口さんにそう言葉をぶつけて階段を降りて勝手に下に降りる。下に降りるとしんと静まり返っていた。と思ったら、いきなり男数人が手前の教室より俺に向かって飛び出してきて、俺の両腕をがっしりと掴んで
きた。
「おい、何するんだ、ちょっと、離せ、ちょ!」
「・・・」
 腕を掴んできた男はまるでゲームとか映画に出てくるゾンビのように何も喋らないし、根本としてまるで操られているかのように意志というものをおよそ持っていない気がした。もしや石口さんが操っているのか?
そう思うといきなり後ろから声が掛かる。
「そう、その人たちは私が操っているのです。なにせ神様だから」
「バカヤロウ離せ。操っているのなら離させる事もできるはずだ。まずはそれからだ」
「わかりました」
 と石口さんが話した刹那、固く掴まれていた腕が開放される。本当にこんなことがありえるのか。でも目の前で確かに見た。まるで冗談か何かみたいだ。全校生徒が手を組んで俺を騙している可能性、それは
まず無いのではないか。とすると。
「おい、いつから、その神様というやつになったんだ」
「突然です」
 おいおいそんな適当なものなのか。まるで目の前にUFOが出てきて宇宙人が降りて来て握手してるようなものだ、ありえなさというかリアリティの無さという点では。
 もしかしてこれは洗脳されているのか、つまり石口さんは心理的に俺を乗っ取って幻覚妄想を見せているのか。これは全て妄想、幻覚。
「これは現実なのか、幻覚妄想を石口さんが見せているんじゃないか?」
「まさか、現実ですよ」
「証明してみせろ」
 俺は妙に強気になっている。この世界を解く鍵を見つけたような気分、石口さんを解く鍵を手に入れた気分になっていた。だがそれは幻想で嘘ではないかと思ってしまっていた。雰囲気に飲まれている。
「まだ信じてくれないのですか?」
 石口さんは不思議そうな顔をして訊く。いきなりこんなことがあって信じられるはずがない。
「じゃあ、また屋上へ」
 石口さんはそう言って手招きをし、階段を登って屋上の扉の前へ行き、扉を開けて屋上へ行く。俺もそれに従いついていく。
「幻覚妄想を見せている、つまり現実は変わっていないまま幻覚妄想を見せている、という解釈をされても仕方ない部分はありますが」
 石口さんは続ける。
「客観的には変わってなくても主観を洗脳して変えたという主張かぁ・・・」
 石口さんはいささか困った顔を浮かべる。もっとも俺も困る。もう終わらせよう。
 俺は口を開く。
「もう元の世界に戻せ、解釈はどうでもいいい。とにかく元の世界に早く戻せよ。御託はたくさんだ」
「わかりました」
 彼女がそう答えた瞬間に、さっきと同じように目の前が一瞬明るくなった気がする。
 空気、雰囲気が変わった。元の世界に戻ったと少し確信が持てた。僅かばかりの困惑と確信。
「わかったよ、石口さんは神様でいいよ、さっきに話しのように、客観的には変わってなくても主観に作用して変化させる、要は洗脳みたいなもんか、を使えるってことだけで神様でいい。色んな意味で
お腹いっぱいだ」
 と俺は言いつつ、ため息をつく。色んな意味で疲れた。とにかく、世界というやつは・・・どうでもいいやもう。考えてもわからないことばかりだ。そりゃこんな目に合えばなぁ。
「杉原くん」
「は?」
「私を救って、生を実感させてくれる場所に連れて行って」
「無理」
 クイズ番組並の即答である。
 石口さんの刺すような、なんとも言えない視線が痛い。
 決心する。厄介事に首を突っ込んでみようと。それがどんな結果を産もうとも。神様なのなら対価は大きいだろう。どうしても知りたいことがある。
「じゃあ俺は石口さんを救う、では俺は何を得る?」
 石口さんに問う。彼女の答えを待った。やがて彼女は口を開く
「どんなことがお希望かい?」
「この世の果てとか人間の真実とかが知りたい」
「観念的というか、なんというか」
 石口さんは戸惑いの声を上げる、でも知ったことではない。
「神様なんだろ、何とかしてくれ」
「でもそういったのってもう答えがないというか本人次第というか人の数だけ答えがある気がするんだけど」
「・・・」
 まっとうな石口さんの返答に押し黙る。そりゃそうだ。そんなの人に求めることが間違っている、たとえ求める人が神様だって。
「わかった」
 石口さんは何かをわかったような顔をして言った。
「私を救ってくれたら教えてあげる。契約成立だね」
「ああ」
 何かが変わり、何かが起ころうとしていた。そんな感じをした。