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白にんじん
白にんじん
novelistID. 46309
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気まぐれ、神様、文芸同好会

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 家に帰る。携帯電話を見ると石口さんからメールが届いている。そういえば石口さんとアドレスの交換をしたっけ。石口さんからは「件名:なし 本文:明日の一時間目は屋上」
 しかし明日の屋上で何を話す気なのだろうか。何かネタを用意すべきなのだろうか。そもそもわざわざ「生」を実感する意味とは
なんなんだろう。いわゆる自殺志願者なのだろうか。
 本物の自殺志願者にかける声を俺は持っていないし、俺程度のやつが声をかけても自殺を止められないだろう。そもそも人は人を救
えるのだろうか。「自分」が「自分」を救うことはあっても「他人」や「世界」が「自分」を救うことができるのか。
根が捻くれているからこんなことを思うのだろうか。
 一時的な事情なり病気で自殺したくなったとする、でもその原因なり病気が去って自殺したくなくなったとする、それは「自分」が
「自分」を救ったのではないだろうか。うーん。
 人間は遅かれ早かれ死ぬ。逃れられない。生きていることは緩慢な死刑執行への道だ。その道は平等だ。どんな人間でも、どんなに財産を持っていて
も、どんなに社会的地位を持っていても。
 人はいつか死ぬから、それまではせめて自分で死ぬな、そんな理屈で自殺志願者を止められるか。本人の気持ちはあくまでも類推して「わかった気」
にしかならない。本人の気持ちは本人にしかわからない。
 こんなことを考えていると明日の屋上が憂鬱でまるで俺の処刑場のように感じてしまう。まあ彼女が自殺志願者だとはまだ決まってないし考え過ぎで
穿ち過ぎなのだろう。そうであることを祈る。
 もう考えるのをやめた。次の日に備えるために寝る。
 朝起きて、今日は早めにでて、朝っぱらから屋上に待っている。まるで逢引のようで笑えてくる。そういう待ち合わせではないのだけれど。寝転がって
空を見てる。晴れていて澄み渡った青い空。でもそれは皆の心には届かない色だと思う。綺麗すぎるのだ。綺麗すぎるのは決して真実ではない。彼女を
見ているとそう思うのだ。綺麗さは毒で嘘だ。
「おはよう、新入生総代君」
「その名前で呼ぶな」
 石口さんのお出ましである。今日は昨日のような雰囲気は少なかった。しかしえらい新入生総代にご執心だがなにかあるのだろうか? もしかして狙っていたのだろうか?
「その、石口さんは新入生総代狙っていたの?」
「ええ、2点差で君に負けましたけどね」
 予想は当たった。
「生を実感させてくれる場所は見つかった?」
 彼女は簡単に言ってくれる。難しい質問だ。でもちょっとひらめいた。
「ああ、ここ、屋上しか無いだろ」
「そのこころは?」
「死に近いからだ」
「屋上から落ちたら確実に死んでしまうね。たしかに落ちようと思えば柵を越えるだけだから、とても簡単ね、なるほど死に近い」
「そうさ」
 それが俺の解答だった。
「えらく単純な答えだけど、確かにある面ではそれは正しいわね」
 彼女は憮然として言う。
「それは多分石口さんが満足するような答えではないことはわかってる」
「うん」
「俺は、君を救えない」
「うん、でも救って欲しいなんて言っていない」
「でも、今までの話を聞いた限りではそういうことだろ。救済を求めていたんだ。」
「・・・」
「人は人を救えるのだろうかって昨日考えてたんだ。」
「うん」
「俺は救えないと思うんだ」
 ただ自分の考えを言っているのだが、それは彼女に無力だと告白していることに等しい。
「うん」
 彼女は歯切れよく、素直に頷いていた。
「すごく自分勝手な話だと思うんだけど、端的に言うと自分は自分でしか救えない。それは残酷なことかもしれない。自分の世界は自分でしかつくれないじゃないか。
そうだ、主観と客観は違う。主観と客観はかみ合わないし、主観というのは顕然として存在する。人は人を救えない」
 違う、違う、違う、俺が石口さんを救えない言い訳をくどくど述べているわけではないんだ。
「私は」
 彼女が落ち着いた様子で口を開く。
「人間は、人間を救えると、信じてる」
 ゆっくりと咀嚼しているような感じで言った。確かにそうであってほしい。でもそうではないと俺は思う。そんなに世界は優しくない。世界はいつも強大で人間を押しつぶす。
「世界はそんなに優しくない」
「人間は人間を救える」
「無理だ」
「自分が思っているだけ」
「違う」
「俺もそうであってほしいと思ってる。でもそういう風に世界というものは出来ていないんだ。世界は人間を否応なく押しつぶしていく。戦うか逃げるかだ」
「それは、」
 ゆっくりと、まるで俺に言い聞かせるかのような口ぶりだった
「あなたが人を救えないだけ、ただそれだけのこと」
 否定したい。心の底から。俺は違う。さっきから、いやこの人は何を言っているのだろうか。この人は俺をずっと掻きまわして色々考えさせる。いったいこの人は俺にとって
の何なんだろう。
「石口さんは」
 聞くのに躊躇うことであった。しかしながら今さらためらうことではない。
「生を実感したいということは、死にたいということか?」
「いいえ、似てる点はあると思いますが、違う点が大部分だと思いますね」
「そんなもんかい?真意を計りかねているのだけれど」
 もちろん、彼女が飛び降りるなら全力で止める。それが愛だの恋だのというのは正直よくわからないけど。
「私は・・・」
 彼女は大きく息を吸って言葉を発し始める。
「神そのものかもしれない」
「は?」
 目の前の少女が何を言っているのかよくわからなかった。誰だってそんな言葉を聞けば同じ感想を抱くはずだ。妄想か現実逃避のたわごとである。しかしながら、誰だって主観
の中では神様なのである。たぶんそういうことを言っているのではないのだろうと察しが付く。
 彼女が神様とかそういうのと、生を実感したいことが自分の中で繋がらず戸惑う。さっぱりわからない。くだらない空想をこじらせたのではないか。
 自分の中での戸惑いが顔に出ていたようで、彼女は口を開く。
「神様だから生を実感したい」
「神様なんてそんな与太話信じないぞ。そんなものは存在自体しないし、神様が目の前の人間だなんていきなり言われてああそうかと信じるほうがどうかしてる」
「では、この学校の生徒全員を狂わせてみせましょう」
「そんなのできるわけがない」
「やって見せたら信用しますね?」
「だいたいなんだって俺がそんな立場っつうか役割に置かされなければならないんだ、神様さん?」
「そんなの、きまってる、神様の選択」
「やってみせてみろ」
「わかりました」
 直後、目の前が一瞬明るくなった気がする。本物ではないかという本能的な予感。後悔が頭をよぎる。おいおいなんなんだなんなんだ。ここで俺がビビってどうするんだ。人型の
 神様なんてあるわけないし、そもそも神様なんているのか。同級生が神様とかどうかなってんだろ。そういうの。無理矢理過ぎる。神様が人を操作する?ゲームの世界か?現実だ。
 石口さんの方を見ると、微動だにせずにこっちを見ていた。ただただ見ていた。特に感情はなかった。
「なんなんだ、なんなんだよ!」
「下へ降りましょう」
「降りたら何があるんだ!」
 半分大声である。
「新世界です」