気まぐれ、神様、文芸同好会
俺はコーラ。有川さんは紅茶。石口さんはお茶。性格がなんかにじみ出てるよな。うん。
「有川さんは割とおとなしそうな感じだなのになんだか以外にアクティブだな」
と俺はコーラ片手に発言する。正直な感想であった。
「杉原くんの前だから話せるのかもしれない。でもさ、文芸部作った理由聞いて嫌になった?」
有川さんはまた俯き加減でつぶやく。そんな彼女の姿を見て可愛く思った。石口さんはそんな俺の気持ちを読んだのか
「まぁいいんじゃないの」
なんて適当なことを言っている。本心は不明。まあ俺達は巻き込まれた側になるが、有川さんがこういうアクティビティがある人とは思わなかった。人は見かけによらない。
「それはそうと石口さんは何を買ったの?」
有川さんが石口さんに聞いていた。この二人の組み合わせは見てて面白い。石口さんの返答を予想してみる。多分有耶無耶にしてごまかすんじゃないかな。しかし以外
や以外。彼女は有耶無耶にするどころか買った二冊の本を有川さんに渡した。
「今買った本貸すから、有川さんも今買った本を貸して」
その結構意味不明な提案を有川さんは飲んだ。そうして二人は今買った本を交換、いや貸しあった(?)。いいのか。
「じゃあ後は二人で、先帰るね。同好会は毎日やるの部長さん?」
「ええ、まあ」
「分かった、じゃあ明日も行くから」
石口さんはそう言って足早に自転車置き場の方に行き、本当にさっさと帰ってしまった。
二人きりになってしまった。
「じゃあ」
不意に二人の声が重なり、視線が重なった後、どちらともなくそらしはじめ、もう片方も視線をそらす。気まずいというか、まずさというよりも照れというか恥ずかしさが
あった。多分相手もそうだと思う。
「・・・そろそろ帰ろうか」
そうやって俺は言い、どちらともなく自転車置き場まで行く。その空気はなんだか優しかった。もう夕方になっていた。
「じゃあ」
俺はそう言って一足先に自転車に乗り颯爽と(?)家に帰る。
家に帰っても誰もいない。父子家庭で親父は仕事中の時間なのに家にいたらむしろ心配だ。親父の心配はこの際しないでおく。母親は物心がつく前に病死した。正直おぼろげ
ながらにしか覚えていない。そんな風にしか覚えられていない母親も随分不幸だと思う。でも覚えていないものを覚えたことにはどうやっても出来ない。
問題は有川さんだ。連次無しで今日の出来事を過ごしたら妙に有川さんを意識してしまった。有川さんの年齢相応の等身大の感じが琴線に触れた。意識しているのとし
ていないのではかなりの差がある。
もっというと友人の延長線上に恋愛というのは存在してなくて、恋愛というのはそれとは発生学的に別個ではないかと思う。今の俺は恋愛という発生地点には居ないと
思いたい。だが残念なことに思いたいという事自体すでに思ってしまっている。
そうである以上出来る事はなにもかも隠し通すか、進めるかの二点である。連次とは安い恋愛劇では争いたくない。ただ有川さんは連次とくっつけばいい。早く連次が
有川さんを止めてほしい。
そういえば石口さんをどうするかも問題だ。こっちのほうがそもそも本題に。生を実感させるには極論をいうと死に近づけるしかない。神様は死なない、と仮定すると
乱暴な話屋上から落としてしまえば良いではないかと思う。でもこれはかなり道義的に問題がある方法なので却下。もし死んだら困る。
神様殺し。人間は神を超えること。神が全知全能で人間を作ったのなら不公平を通り越していると思う。そんな神様など居なくていい。そんなふうに俺は思うのは母親が
いないから、いわゆる被害妄想的なのかもしれない。八つ当たりに近いのかもしれない。
どうして彼女は神様になったのだろうか。それを訊いた所でどうなるものでもない。そういうものだって言えばそうなんだろう。
不意に携帯電話が鳴る。誰だ。連次からか。
「よう、今日は本屋に行ったのか」
あまり言われたくないというか触れられたくないことだが、そのうちにはバレてしまいそうだということは多少分かっている。
「ああ。特に変わったことはなく終わった」
心は十二分に揺れ動いた。だからそれは白々しかったけど言わずにはいれなかった。
「うん、俺には無理かな」
「何が」
「色々」
「色々って?」
連次が言おうとしていることはわかる。どうせ有川さんのことしか思いつかない。それを俺の方から言いたくない。
「そのさ・・・有川のこと」
「うん・・・」
「千秋のこと多分気に入ってるよ」
「そうかな・・・」
それは多少なりとも自覚しているつもりだった。
「だからさ、多分俺がどうこうしても多分どうにもならないんだ」
「それぐらいで諦めるつもりか?」
「でも本人が望んでないのに無理に押したってしょうがないだろ」
少し怒気がかった声で連次は答える。
「いや落ち着けよ」
「・・・もう文芸部には顔を出さない」
「は?」
「もう行かないよ」
「それはまずいだろ」
「野球部が忙しいんだ」
これで電話は切れてしまった。
でも俺は有川さんを取る気はない。これは確か。しかし妙なことになってしまったな。連次が文芸部に来なかったら俺と有川さんと石口さん三人になってしまうがなん
だかこの三人だけの空気に耐えられそうにない。あの様子だと連次には取り付く暇も無さそうだし・・・。連次の気持ちはわかるが。
そうやって考えてたらもう寝る時間になったので横になる。玄関の鍵だけはかけておく。
今日の一時間目は世界史なので屋上でサボって携帯ゲームをしている。おかしいな。なにかおかしい。でも何がと言われるとわからない。だからとりあえず気にしな
いでおく。空は晴れ渡って青い。でも俺の心は晴れ渡ってない。それは連次も有川さんも同じではないか。今日は放課後に文芸同好会がある。連次は放課後本当に来ない
のか?そもそも今日は教室に朝から言ってないので連次に会っていない。なんとなく教室には行きづらかった。有川さんにも顔を合わせづらかった。
そうやって空を仰いでいると、つい横の扉が開く音がする。石口さんが入ってきた。目があった。
「生を実感させてくれる場所は見つかった?」
俺は無言で立ち上がり、彼女に近づく。
「え、何?」
彼女の疑問を意に介せず、ただ一つの目標へ時間を進めなければならない。ただひとつの終焉。それは彼女に生を実感させる。俺はそれを実行する。
「ん、ん、ぐぐぐっ」
彼女の首を両手で掴み、落下防止と思われる柵まで引きずる。
「神様だから死なない、生を実感するにはもっと死に近づくしかない」
そうやって俺は言って、彼女を力任せに柵の向こうまで押しやる。そうすると彼女の口は喋るように動いた。その声は首を絞めている最中なので聞こえてくるはずがない
のだが、心にはっきりと聞こえてきた。
「この世の果てとか人間の真実はこんなことをやってるあなた自身だ」
この世はグシャグシャだ。なにもかもがぐしゃぐしゃで救いようがない。救いようがない不幸がゴロゴロしている。道理的で論理的な配列がなされてはいない。神様は救い
作品名:気まぐれ、神様、文芸同好会 作家名:白にんじん