しかくのなか(4/10編集)
「それで、子供は、どこに……」
「さあ、私にわかるわけがないだろう。訳がわからないから【怖い話】なんだ」
すげなくそう言う友人の明歌(あきか)に、義光(よしあき)は息をついて肩を落とした。子の親の心情を思えば何ともやりきれない話だ。落ち込む俺を横目で見て、友人はあやとりをしながら続けた。
「私の考えではな、開かずの間を開けなければ、その子はずっとそこにいたと思うぞ」
「え」
真意を掴めない話だった。義光が呆気にとられていると友人はこう続けた。
「開けてしまったから、中を見てしまったから駄目だったんじゃないのか、中さえ見なけ正体を知らなければその子は開かずの間の中でずっと生きていたかもしれないだろう」
「いやいや、そんな入口ない部屋に閉じ込められたらどっちにしろ死んでもうたやろ」
「わからないぞ、そもそもどうやってその子が中に入ったかすらわからないんだ。それにただ死んだだけならーー死体は残っているはずだしな」
そうだ、開かずの間は出入り口などなく、四方が壁で囲まれていたはずなのだ。そこにどうやって子供が入り、そしてまたどうやって消え失せたというのだ。開かずの間がもし開かずのままだったなら。壁の中から子供の遊ぶ声が永久に聞こえていたのか。
しんと静まり返った屋敷の中、むかぁしむかぁし……と幼い子供の朗読が聞こえる情景を思い浮かべて義光は身を震わせた。
作品名:しかくのなか(4/10編集) 作家名:狂言巡