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Grass Street1990 MOTHERS 完結

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 ……ちょっとハデな音がしただけだった……銃は壊れもせず、床を少しへこませただけで、カウンターの方に転がっていった。
 「弾はもうないの?」
 俺はその質問を無視して、言った。
 「……なんで……いい大人が揃って……こんな結論なんや……」
 「……そうね……」
 「あんたら親達だけで終わらせておけば……」
 俺は、自分の言葉にほとんど力がなくなっているのに気付いていた。
 けれど。
 「なぜ試した?」
 「……試す?」
 「そうや、あんたは勝手に他人を試した……他人を試すなんて、誰であろうと許されることか?……
 他人は絶対に……いいか? 絶対にや、自分の思う通りには動かん…
 それを、自分の気持ちと違ったら、死をもって償わせる? ……いいかげんにしろ!」

 高木は微笑んだまま、遠くを見るように言った。

 「……そう、私は、試したの……そして、私は、試しただけ……誰にも死で償ってもらおうなんてしていないわ…
 …私は、何もする気はなかった……私がしたら、雅夫の時のように、間違ってしまう気がしてた……」

 そして俺をまっすぐに見て、叫んだ。涙を流して。


 「もっとマシだと思ったのよ! 本当の親なんだから!

 時江は! 昌美も!

 親じゃない私なんかよりはずっとマシだと!」


 ……何もかも、彼女は正しいのかもしれない。

 「帰る、その銃は返す。」

 どうにもならない。逃げるが勝ち……いや、もう勝ちはない……

 ドアのところまでいった俺に、高木の言葉が聞こえた。
 「……ごめんなさいね……」
 俺は、とっさに振り返って怒鳴った。
 「俺に謝るな!」
 俺は、ただ一発抜いておいた銃の弾をポケットから取り出し、テーブルまで戻って高木の目の前につき付けた。

 「あんたの望みの弾や! これと、さっきの銃で、勝手に死んでしまえ!」
 言ってから気が変わった。
 「……やっぱやめた……そんな楽なのはあかん……この弾は持っていく……」

 高木は、はっきり笑顔になった。
 「……本当に優しいのね……だから良美ちゃんはあなたに……」

 ……3人目だ、この台詞……
 褒めてるつもりか?…

…だが……自分がそうなろうとは思わないのか。

 「……良美ちゃんを、よろしくね……」
 「断わる、」
 俺は、ドアに手をかけながら言った。
 「……川本に手を出したら……あんたに殺される。」

 俺は振り返らずにジーザスを出た。

 ……少しは決まっただろうか……


42

 「終わったのか?」

 ドアの外には、リーダーとズボがいた。
 俺には何とも判断がつかず、答えられなかった。
 「……ああ、川本さんはおっしょはんと大工に送ってもらったよ。2人はそのまま事務所にいくから。」
 完全に復活したリーダーは、俺の沈黙など気にもせず、言葉も滑らかに説明した。
 「ズボ、渡辺は?」
 「聞けたのは、青山と一緒に、高木の母親にスカウトされてこのバイトをしていることと、髪を切った昨日から、高木の母親が妙に優しく話したので気味が悪かったという2点。」

 こいつのことだから、あと電話番号くらい聞いているだろうと思ったが、聞いても教えてくれないだろう。
 「リーダー、戻りましょう。事務所で話しますよ。」

 俺は珍しくゆっくり歩き、前のリーダーと少し離れてしまった。
 隣にはズボがいた。

 「信じられるか? 子供が親の過ちを繰り返しそうだから、そうならないように、親が、子供を殺そうとするなんて。」

 「なんや、それは……
 つまりは、そうなのか?」

 「きっかけの一つは……な。」
 ズボは、性懲りもなくFKを取り出した。そしてうなずいた。
 「……ふーん……」
 こいつには難度が高すぎるらしい。もう少し簡単な話にしてやろう。
 「なあ、ズボ……青山と渡辺は、なんで関わったと思う?」
ズボは少し間を置いて答えた。

 「……好奇心、やろ。たいして深い考えやない。やってみたかっただけや。」
 「……でも、それで青山は死んでしまった……」
 自分の言葉に敗北感が沸き上がってきた。

 ズボは突然、はっきりした口調になった。まるで今言っておかなければ消えてしまうというような感じだった。

 「何の罪でもないのにな……好奇心なんて、何の罪でもない……たしか英語の授業で習った。それで死ぬのは、猫だけなんやろう?……」

 「妙なことを覚えてるんやな……」

 Curiosity killed the cat
 ……ああ……イギリスの諺だ……そうだ…猫くらいだ……それで死んでもいいのは……

 「……でもまあ、結局、なんにもできなかったな、」
 俺は、前を向いたまま話題を変えた。
 「親子って、深すぎる。他人には、何にもできないんやな。放っておくべきやったかもしれん……かえって、問題を広げた。」

 「そんなことない、」
 ズボも前を向いたまま答えた。
 「……深すぎるから、かえってできないこともあるんや、今回のように……
 ……親子だから、どうしようもなかった。憎しみは止められなかった。真実を我が身の真実として受け止めることもできなかった……
 ……だから、時には、何にも気持ちのわからない他人が必要なんや。
 もちろん、懸命にわかろうとはしてくれながら、けれど、どうしてもできない他人がな……好奇心ではなく、自分のことを考えてくれる他人が……」

 ズボは、俺を見た。

「……だから、川本はお前を選んだんやないか。」

 ……4度目だ。

 ……そういえば、俺はそのことをよく考えてみたことはなかった…

…なぜ、俺を……川本の周囲の者達より、少しはマシだったのだろうか……そのように見えたのだろうか……わからない……自分のことはよくわからない……

 いや、それは嘘だ。自分のことは自分が一番よくわかる……
 だから、認めたくないだけだ。
 俺が、川本の望みには程遠い人間であることを……そして、それを認めざるをえない所までは俺は近づかなかった……

 ならば……
 この絶望的な結末は、俺のせいではないだろうか?

 ……けれど、とりあえず……

 俺はズボよりも遅れて歩きながら心に決めた。しばらくはこいつがどんなタバコを吸っても文句を言うのは控えよう……

 とりあえず、俺にはこいつよりマシな奴がいないのだ。

 メインロードの角のところで、リーダーが突然振り返って俺達に言った。
 「結局な、親の許容範囲でいるものだけが、子供、なんやな。」
 聞いていたのか……あなどれん男だ。

 俺は、考えさせられて下を向いた……ならば3人の子供達は、許容範囲を越えたので……

 リーダーは同じ表情で続けた。
 「ところで今週の練習、金曜日でいいか?」

 俺は、足取りがさらに重くなった。


43

 戻ると、事務所には川本良美がいた。

 「先生……」
 「子供は寝る時間やろう。」
 川本は、ちょっと怒った顔をしていた。
 「この子な、途中で、どうしてもミノに会うと言って、こっちにきたんや。」
 おっしょはんが、大して困ったような顔をせず、言った。

 「教えて、先生、輝久君のママのこと……」
作品名:Grass Street1990 MOTHERS 完結 作家名:MINO