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Grass Street1990 MOTHERS 完結

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 …それと……そのカタを付けるのは、私しかいないと思った……すぐに銃を出したわ……それで、撃とうと思った。
 そしたら……良美ちゃんが目に入ったの……私と同じ気持ちでいる気がした……母親を犯そうとする男を……良美ちゃんにも、撃つ資格はあると思った……
 ……そっと良美ちゃんの後ろに回って……あの子を抱えるような姿勢で……小さな指を引き金にかけさせて……あの子は、何にも反応しなかった……
 ……それで……一緒に……撃ったの……」

 …俺は……情けないが泣きそうになっていた。どこにも救いがない……
 なぜ……もっとマシな……

 高木は、ほんの少し俺の表情を眺めてから、また話し出した。

 「……言い訳に聞こえるかもしれないけれど、本当はね……まず背中のあたりを撃つつもりだった……的が大きいし、それに…
 …背中を撃ってこちらを向かせて……私に気付かせて……ちゃんと私だとわかるようにしてから……殺すのは私の手でと思った…
 …でも……さっきあなたが言ったわね……撃ったら二つ上の棚に当たった、とか……そう……私も、初めて撃ったの、銃を……だから、背中を狙ったのに、反動で上に……頭に当たったわ……
 即死だった……
 同時に、跳ね返った銃が、良美ちゃんの額に当たった……良美ちゃんは、急にはっきりした声で泣き出した……額から血が出て……私は……なんだか雅夫のことなんかどうでもよくなって……我に返って……良美ちゃんになんてことをしたのだろうって、そればかり考えていた……
 ……異常に気付いた昌美と、銃声を聞いて飛び込んで来た谷岡が見たのは、きっと『良美ちゃん、どうして、どうして』って叫んでいる私と、銃を持った手を床に置いて泣いている良美ちゃんだった……
 ……勘違いしたのよ……それも、有無を言わさぬ勘違い……
 ……谷岡は、全てを自分にかぶることにした……自分の娘のことを何度も頼みますって繰り返して……銃を手にして…
…私は……良美ちゃんへの罪悪感で何を言われてもうん、うんって言ってた……」

 「……それで……あなたはあの二人には優しかった……」

 「……良美ちゃんが言ったの? ……優しかった…
…そう、そうね……それでいいわ……」

 後悔した。ヤボなことを言った。

 「……そこで……もう……終わらせようと思った……私が撃ったって言うのは簡単だけど……そしたら……良美ちゃんが銃を持っていた事情を言わなければならなくなる……本当に撃ったことを……だから……言えなかった……良美ちゃんが覚えているようなら言うつもりで、今日まで……
 ……それで……また日常が始まった……時江はそれから私に怯えて、それだけは気分が良かった……

 ……もう、これでいいと思っていたのに……」

 「平田芳美が気付いてしまった。」

 ……またヤボだ……男というのは、後悔や反省が役にたたない生き物である。

 「……そう……でもそれより、子供たちが大人になって、以前の自分たちを思いださせてきた……平田芳美は……あんなひどいわがままじゃないけど、それでも、なんとなく時江を思い出させるようになった……良美ちゃんも、昌美に似てきた……
 ……そして何より、輝久が……私が最も恐れていた……雅夫みたいになった……粗暴で、甘ったれで……どうにも止められなかった……」

 男はみんなそうだ。

 「……悲しかった……そのうちに、どうにもできないのは自分が本当の親じゃないからだと思った……輝久が時江の娘と寝る関係になったと知った時……血が繋がってるのにね……時江は無関心だったけど……また……同じだと思った……輝久を何とかしなければ……確実に……
 ……もしも、輝久が良美ちゃんに……そうしたら、私のしたことはみんな無駄……それが雅夫の血なら……輝久も……
 ……けれど……私はもう嫌だった……私では、雅夫の時のように、失敗してしまう……
 それは……私が親ではないから……
 ……輝久は、私と良美ちゃんが撃った銃のことを知っていたわ……家にあった銃ですものね……それを谷岡が撃ったことを、ずっと疑っていた……平田芳美と付き合うようになって、輝久はその嘘に気が付いた……それで……良美ちゃんに……

 ……だから……親に…

…本当の親に始末を付けてもらおうと思ったの……時江に……

 私がしたのは、まず、時江を脅した……時江はね、昌美にはつらく当たっていたけど、私には怯えていたから。
私は時江に言ったの。『今度は輝久と同じ目にあんたが遭うのね』って……時江は、その時はっきりと目の色が変わったわ。それまではつらく当たる程度だった昌美に、ほとんど攻撃でもしているような態度になった……それから、私は昌美にあの青山と渡辺の二人を紹介した……それで、昌美は二人を自分の店と時江の店に行き来させるようになった……娘たちに似たあの二人がどんな効果になるか……」

 「……平田芳美の思い通りになって……身代わりの青山は時江に撃たれて死んで……輝久も…
…それで、彼女は、平田芳美は気が狂いそうに苦しんでいます。」

 俺は、もう悲しくはなかった……怒っていた。

 「……そう……」
 「自分の甘さは認めます。けれど、もう聞きたくない……あと一つを除いて……」

 高木明子といい、平田芳美といい……他人に対する賭けばかりしている……
 そんなもの……負けるに決まっている……
 ……それに負けたからといって、相手の人生を終わらせていいのか? ……
 わからないのなら……

 ……手本を見せてやる。

 「……なぜ、青山と渡辺を用意したんです?」

 高木は放心した状態から少し、我に返った。
 「……川本良美が言った言葉です……ママはよく、お酒を飲むと私にしがみついて泣いた……あなたは、何のために二人のヨシミに似た女を用意したんです?」

 俺は立ち上がり、右ポケットに手を突っ込んだ。
 「……さっき、僕の仲間がきて、輝久と青山の死を告げた……その時、あなたは泣きわめいたという……
 ……渡辺に、すがりついてですか? ……」
 高木は、目をつぶった……そして小刻みに震え、小さくうなずいた。

 「……あなたは、誰のことでそんなに泣いたのです? ……」

 高木は、しばらく目を閉じていた……それから、意を決したように目を開けた……

 ……口が……「あ」の形を作った……

 「答えるな!」
 俺は、ポケットから出した銃を、高木の額に当てた。

 高木は目を見開いたまま、凍り付いた。

 「あんたがしたことは、これや……平田芳美がしたのもそうや! 他人を使って賭けをする、そして望まない答であれば死をもって償わせる……あんたがそのまま答えれば、俺が同じことをやってやる!」

 高木の表情が和らいだ……

 ……そして……言った……

 「青山よ。」

 ……俺は引き金を引いた……


41

 「優しいのね……」
 不満そうな顔で、高木明子は、微笑んだ。

 「……バカ野郎……」

 ……全て負けだ……

 俺は、テーブルの横の床に銃を思いっきり叩き付けた。
作品名:Grass Street1990 MOTHERS 完結 作家名:MINO