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Grass Street1990 MOTHERS 完結

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 もともと、14年前、雅夫に川本昌美を襲わせたのも、私よ。」

 ……ご褒美とかおでことか、相変わらず気になる単語は出てきたが、そんなことより、俺は自分のあまりにも甘い見方にショックを受けていた。座っていても、動揺は隠しようがなかった。

 「……もう……なぜなのかを教えてください。この先のことはいいです。あなたがしたこと……平田芳美似の青山と、川本良美似の渡辺を使ってしようとしたことも……
 ……もういいです。それより、これはなぜです? ……どうしてもわからない……

 ……なぜ、自分の子供だけが助からないようにしたんです?」

 「……言ってるじゃないの……」
 高木は、久々に悲しい顔になった。

 「……私は、親じゃないのよ……親になれないの……」


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 「……男の人に言う話ではないけど、私は、子供の産めない身体なの……だから、輝久は、雅夫が他の女に産ませた……」
 高木の表情は、前の台詞から悲しいまま凍り付いたようだった。
 「……平田時江に……」

 俺は……何も言わないでおこう。生徒の話を聞くように、ただ、聞こう。何か口にすれば、それは職業柄説教のようになる……それは彼女に失礼だろう……

 「時江と昌美と私は、同じ歳なの。みんなそのときは二十一歳だった……3人とも、今とあまり変わらない性格ね……時江は気が短くて、利己的で、昌美はおだやかで、私は……自分のことだからよくわからないけど、こんな感じだったんだと思う……何でも受け入れてしまうような……
 雅夫と私は19歳の時から同棲していた……時江と寝ていたのも知っていたけど、何も言えないでいた……けれど、子供ができた……時江に。簡単に堕ろせない時期になってわかった……時江は、親になれるような女じゃなかった……平田芳美にとってもそうだったわね……今回も、結局……
 ……男の子が産まれたわ……輝久……私が名前を付けたのよ、明子の明るいから考えてね……輝く、それも久しく、なんて……
 時江は産まれた子供を全く無視したわ、信じられないけど、そういう人なの……それで、雅夫は当然のように、輝久を私のところに連れてきた。私も……何も言わずに世話をした……名前も自分で付けて、自分の子供だと思おうとした……おかしな話ね、自分の子供なんて、私には一生わかるはずのない感覚なのに……どうしてそんなことができると思ったのかしら……
 子供を育てるのは大変だった……あんなに若い頃で、何も知らなくて……育てるどころか、死なないようにするだけで大変……気が狂いそうだった……それなのに雅夫は、父親らしいことどころか、私の部屋から足が遠くなった……たまに来ても、輝久につらく当たった……それでも、育てたわ……意地だったのよ……
 ……そのうちにもう愛情なんて甘いものには何の意味も見い出せなくなった…
 …意地よ…
 …そして、きっと怒り……
 ……私は自分のことで精一杯だったけど、そうやって輝久と暮らしている間に、時江には、今度は石川の子供ができた……私にはどうでも良かったけど、時江の方には雅夫に未練があったらしいわね……でももう、雅夫は時江に嫌気がさしていたみたい……その始末を、雅夫の弟分みたいな谷岡にさせて時江と谷岡は一緒になった。谷岡は純情な男で、時江はとても美人だったし、石川には恩もあるらしくて、喜んで一緒になった……石川はそのころ若くて、どうしようもない甘ったれのぼっちゃんだったのね、次には昌美とも付き合って、子供ができた……でも、昌美は時江と違って、結婚しろとか大騒ぎするような性格じゃなかったから、そのままだったわ……
 ……輝久が11歳の時……14年前ね……突然、時江が、輝久を返してほしいって言ったの……これも当り前みたいな感じでね……その理由が……ひどいじゃない……雅夫が、その頃昌美にちょっかいを出していて、時江は、それが許せなかったの……自分と雅夫の子供を使って、何かしようとしたらしいの……
 ……私、その時に、時江が返せと言ってきた時に……今でも覚えてるわ、あの感じ……それまでの、意地と、怒りと……全てがなにか、越えて、しまったの……
 ……時江がいる前で、私、しばらく、うつむいて黙っていたわ…
 …その間に、私、心の中で、雅夫を殺していたの……雅夫が若い頃たまに見せた、あの銃で…
…部屋にあったのよ、銃が。
雅夫は、もう新しいのを持っていて必要なかったらしいの……その銃で、心の中で雅夫を撃ち殺していた…
 …快感だった。すごい快感だった……
 ……私が顔を上げた時、時江はちょっと気味の悪そうな表情になったわ……覚えているわ……だって、私は笑っていたものね。それで、言ったの……私の中では雅夫は殺してしまっていたから……言ったの……『いいかげんにしなさいよ。あなたも、雅夫と同じ目にあうわよ』って……それで声をあげて笑ったわ。
 ……時江は怯えて帰った。私の気が狂ったと思ったんでしょうね……
 私は……時江なんてもうどうでも良くて、1人になってからもまた、何度も、何度も、雅夫を心の中で撃ち殺していた……うれしかった……笑って泣いてたわ……うれしかった……
 ……次の日、谷岡を呼んで、雅夫と昌美のことを聞いた……谷岡も、困っている感じだった……恩人の女に兄貴分が手を出そうとして……昌美もしっかり拒否していたらしいけど、どこまで持つか……その3日後に雅夫は店からあがった昌美と会う約束をさせていた……谷岡にももう止められなくて、何とか最悪の事態は避けるために、4歳の良美ちゃんを連れて行くことにしていた……甘いわよね……本当に男って……それで何とかなると思うんだから……
 ……それで、私も行くって言った……谷岡には、中途半端なことはバレてしまうので、その場に私が行って、場合によっては雅夫と別れる気だって伝えた……もちろん、あの銃を持って行く気だったのよ……
 ……私もね、本当は、雅夫を殺すなんてできないと思った……きっと、銃で脅して、泣いて、話して……殺すよりも、それでどうしようもなかったら自分を撃つ可能性のほうが高いと思ってたわ……」

 なんとなく、平田芳美を思い出した…
…平田芳美が母親を試したように、高木明子も自分の夫を……

 高木は優しく悲しい目のまま続けた。 
 「……輝久の寝顔をしっかり見てから、銃を持って出かけたわ……
 店……名前も忘れたわね……PSの近くにあったんだけど……そこの横で、谷岡が待っていた……雅夫は少し前に中に入ったらしい……鍵をもらって……裏からそっと入った……谷岡は、何かあったら入れるように、鍵は開けておいてくださいって言った……
 ……カウンターに出たら……今でも鮮明に覚えているわ……雅夫はソファに昌美を押さえ付けていた……それから……カウンターの方向に……きっと雅夫に突き飛ばされたんだと思う……良美ちゃんが、声にならない叫び声をあげて……わかる?……泣き声にならないくらいつらい叫び……倒れた姿勢のまま口を開けて、じっと母親を見てた……
 私は……入るまでは雅夫になんて話そうかとか、考えていたのよ……きっと……
 ……でも……その光景を見て……もう……この人は生きていたらだめだと思った…
作品名:Grass Street1990 MOTHERS 完結 作家名:MINO