小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Grass Street1990 MOTHERS 完結

INDEX|3ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

 もちろん、僕らが引っ掻き回すまでもなく、もうほとんど崩壊してましたけどね。
 でもまあ、修復不可能だとしても他人にはそんなところを見せたくないものでしょう。
 ……僕等は数日前、川本良美に頼まれて……まあ、彼女にいろいろだまされはしましたが、結局は、彼女を救うために動いていました。
 あの子に言われるまま、数日前から石川を探った時も、平田芳美を探した時も……今夜、永田組事務所から、3軒のスナックをこのジーザスまで、他人が血を流すのを見ながら……それと、いろんな意味で気の触れた人たち……主に親達を見ながら周り歩いた時も、そして今でも、一番大切な目的はそれです。
 だから、今あの子には帰ってもらいました。
 あの子が望んだのはこの辺までだと思ったからです。
 もう十分だと、これ以上のことは、あわてて今急に解決しなくてもいいと思ったからです。彼女の心には荷が勝ちすぎる……
 人間の本性なんて、何もかも知ろうとしなくてもいい。
 それが親子だろうが、夫婦だろうが……そうですね?」
 「何が言いたいの?」
 「……失礼しました、とまず謝りたい…… 
 ……考えると、自分達は単なる邪魔者でした。百パーセント望んでここまで来たわけではありませんが、結局は他人の不幸に興味を持ったただのアホでした。あれほどさっき自分でけなしたあの渡辺とたいして変わりはない……
 この台詞を言える相手はここまであなたしかいなかった。というより、こんなことを僕が考えつくくらい余裕を見せた相手は、です。
 ……当然かもしれませんが……」
 「それで?」

 高木は、少しおもしろそうな顔になった。
 「本当は、川本を帰して、その後であなたのしたことを暴こうとも思いました。彼女には罪はない。持たなくてもいい罪悪感を持っている。あなたにこの責任をとってもらわなければならない、そう思いました……でも、もうやめました。
 僕等は、単なるヤジうまです。もちろん、多少の目的は持ってましたが。でもヤジウマです。
 だから、もうできません。」
「目的って?」
「さっき言った、川本良美を救うこと。それだけです。でも実はそれは、平田芳美や高木輝久も救うことだった。そしてそのほとんどはできなかった。高木輝久は……
 ……だから、この結果であなたが苦しめばいい……」

 「……苦しむ? ……本当にそう思うの? ……」

 高木は、笑った。

 「……所詮、数日間ではそんなものね。」


 ……? ……

 「……何を……」

 嫌な予感がした。言われて気付いたが、俺にはなぜ彼女が? が何もわかっていない。
 それに、さっき気付いた、『逆』であることの説明がついていない。

 ……なぜ、青山と渡辺は用意されたのに、高木輝久の代りは用意されなかった……もし母親なら……なぜ? ……なぜ逆なのだ……

 引きつった笑顔のまま高木は答えた。
 「何様のつもりでいるのか知らないけど、それで私のしたことがわかっているつもり?……とんだお笑い草ね……」
 「……」
 なんだ? ……なんだ? ……こいつは
 「あなたも、あの人たちと同じ、ただの甘ちゃんだわ。」

 ……お笑い草に甘ちゃん……いつの時代のフレーズなのだろう。俺には決して使えない言葉だ……世代の断絶は深い。こんなに身勝手に台詞を操られたら、自分だけが気を遣ってさっきから敬語で謙虚に話しているのがアホらしくなってきた。

 「どういうことだ?」
 「教えてあげるわ……結果はすべて逆、なんて、ふざけたことを言っている、部外者にね。」

 ……! ……そんな……じゃあ……本当に、わざと用意しなかった……

 「……まさか、望み通り、だとでも……」
 
 「そうよ。」
 高木は、笑顔のままだった。
 
 「なぜだ?」
 「わからない?」
 「……あたりまえだ……子供を……自分の子供を……そんな心はありえない。」
 「……心、ね……だから、所詮数日間だって言うのよ。」
 高木は、挑戦的な目で俺を見上げた。

 「そんな、心、だなんて、私のことを知りもしないくせに、よくわかったように言えるわね。」
 「……自分の、子供だろう……輝久は……」
 「……それが、甘いのよ……」

 ……それなら……

 自分の中にあった台本のようなものが、全く意味をなさなくなっていた。
 「……座らせてもらえます?」
 立っていると動揺がバレる気がして、俺はソファに座った。言葉遣いも敬語調に戻っていた。

 「あなたが考えたことを、教えてくれる?」

 俺が座るのを待って、高木は、なぜか優しい口調になって尋ねた。
 俺は、恥ずかしくなった。やっぱり違うのか? ……それなら、ただのピエロだ。せめて川本の役にたつということだけを理由にしていたのに……それすらも……
 「……間違っているんでしょう? そんなことを……」
 「いいえ、事実は合ってるわ。青山と渡辺の利用方法についてまでもね……用意、だなんて、その通りね……だから、さっき出て行ったままあなたがここに戻ってこなければ、あなた自身、何の疑問を持たず、満足していていいはずよ。」
 「……子供ってところですか……違うのは。」
 「……輝久のこと? ……そう……そこよ……違うわ。」

 俺は、敗北を認めることにした。

 「……言います……
 ……14年前、あなたの夫、高木雅夫を殺したのは、あなただと思う。」

 「なぜ?」
 「疑ったのは、あなただけが、川本、娘の方の思い込んでいる犯罪に、気を遣っていなかったから。あなたの態度だけが、不自然に思えた。他の親たちはみんな、かばうか、罵るかの、まあ納得できる反応だったのに、最もショックの大きかったであろうあなたが、一番無関心のようだった……平田時江や、何よりも高校生の川本自身が気付くことを、あなたが気付かないはずがない……不自然だと思った。川本の話では、あなたは小さい頃から平田芳美や川本にも優しかったらしい……これも不自然だと思った。
 さっきPSで会った川本昌美は、最初、あの事件の時もみあっていたのは自分と高木雅夫と……と言ってから、あわてて自分と高木雅夫の2人、と言い直した。もう1人誰かがいるみたいだった。もう1人は谷岡とは考えにくかった。それなら隠す必要がない、犯人は谷岡だとみんなでそう信じさせようとまでしたのだから……
 ……けれど、それがあなたなら、可能性があった。」
 「まあまあね。理論は弱っちいけど、結論が合ってるから、合格。」

 何だ?……この余裕は……それに、弱っちい、なんてどこの言葉や……
 「……本当に……あなたが……じゃあ、川本の記憶は……」
 「あなたの考えは?」

 敗北を認めているとはいえ、多少の意地はある。また理屈を言って弱っちい、なんて言われるのも嫌だ。できるだけ短く答えよう。

 「後ろから、川本に銃を持たせた。」

 「……へえ、当たり……
 ……そう、あの子の手に握らせて、私が一緒に引き金を引いたの……私も銃なんて撃ったことがなかったから、反動で、あの子のおでこに銃が当たったわ……
 ……じゃあ当たったご褒美に、もっと教えてあげるわ……
作品名:Grass Street1990 MOTHERS 完結 作家名:MINO