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Grass Street'90 MOTHERS 10-18

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 叫ぶように言ったのはズボだった。
 「それは教えられません……信用問題、ですからね。」
後半は俺に向いて笑顔で言われた。くやしいが、手強い。
 「渡辺には会わせてもらえないんですか?」
石川氏は、一瞬暗い顔になり、俺達二人を交互に見据えた。
「実は、もう帰ったんですよ。」

それから一拍置いて、けれど俺には口を開く間を与えないで言葉は続けられた。
 「あなた方が来る前にね。」

俺が思うに、もし明日『金鯱』の横に浮かぶ者がいるとすれば、あの名前も知らないチンピラ二人と、もしかしたら、渡辺である。
あさってまで期限を延ばせば、青山も入るかもしれない。けれどどうにもならないし、こちらには何一つわかってもいない。あのおっちゃんの名前くらいだ……名前と言えば、石川氏は俺達の名前も聞かなかった。

きっと知る必要もないことなのだろう。

午前4時18分。名岐バイパスを北へ、木曽川を渡っている時に、それまで黙っていたズボが言った。
 「俺は、これからお前の単独行動には絶対つきあわないからな。」
 「……そう言うと思った……賛成。」

今日の授業はいつもに増して辛いに違いない…
…あ、それに今日はスケアクロウの練習日やないか。この寝不足の時にリーダーのあの練習好きに耐えねばならんとは……こんな不幸なことがあるだろうか…それからおっしょはんのダジャレにも立ち向かわないと……身体が持たんな…

…休もうかな、学校……


14

眠いっ!
あー眠い!冗談じゃないな、これは。
だいたいズボを送ってから家に着いたのは朝の6時過ぎてた。
6時っていえば小学生の頃はラジオ体操に行ってた時間。そんな時間に寝なければならんとは。大学生やあるまいし……でも大学行ってた頃はしょっちゅうそんな時間に寝たなあ。特にテスト前とかは。そういや、暇つぶし、じゃない、気晴らしに俳句を作ったな。

『朝刊を 読んでから寝る 試験中』

素晴らしい作品だ!
この間川本を待ちながら作った作品にも劣らない。以前からそんな才能があったとは。眠くても凄い奴だ、俺は。

 「だいたいのところはズボから聞いたよ。」
自分の才能に酔いしれることだけを支えに、片道25分の長い道のりを事故も無く、やっとのことで9時15分前に着き、少しでも、たとえ5分でも寝ようと北中部放送のドアを開けた俺を待っていたのは、あろうことか既にギタ-を手に持ち、ねぎらうような微笑みを浮かべるリーダー曽我のこの優しい言葉であった。

「大変やったみたいやなあ。」
 あんたがもう練習の準備してる方が大変や。

俺は疲労困憊といった様子をわざと見せながら、まるで海外旅行の帰りの空港で飛行機会社のカウンターにレンタルの特大のスーツケースを置くようにマンドリンのケースを床に降ろして座った。俺は待っていたのだ。リーダーが、『だから、今日の練習は無しにしよう』と言ってくれるのを。『11時頃でやめとくか』でもいい。せめて今すぐ俺の目の届かないところにギターを押しやって、15分間寝かせてくれるだけでもいい。

……リーダーはGのコードを1回弾いて、2弦と3弦のチューニングを始めた……

 「それで、これからどうする?」
 「……はあ。」
『寝る!』と答えたいのを何とかこらえて、俺は考えようとした。そうだ、昨夜、というか夜半にあんなに劇的なことがあったのに、俺は今後の作戦を一度も考えなかった。俺は今日一日何してたっけ。確か、学校行ったよな……校門遅刻指導もした。足の指は大丈夫だった。授業も4つともやった。何話したっけ……
 ……まあいいや。英語科の会議もやったなあ、これも覚えがないけど、まあいい。部活は眠いから早めに切りあげて、帰って……飯、食ったよな……肉ジャガを食った覚えがある……そうそう、肉ジャガで一番うまいのは間違い無くたまねぎだ。焼肉の王者も言うまでもなく……

……目が醒めた。どうも幸運なことに寝てしまっていたらしい。けれど、変な夢を見て起きてしまった。

……俺は北中部放送の中にいて、事務椅子に座っている。
どういう訳か目の前はどこかの家、というか、見たことのないはずの平田の家の門。
平田芳美のアルバム写真が、微笑んだまま黒いベンツに乗る。
後部座席には一緒に例のチンピラ二人が乗っている。
泣きながら運転しているのは川本。
渡辺と青山があの化粧とあの服装で門柱に片手をついて、もう一方の手を振っている。玄関では-そこはなぜか石川家の玄関になっていたが-その様子を石川氏と谷岡のおっちゃんが凶暴な目で見ている……おっちゃんは右手をさすりながら…
…俺は、怖くて身体が動かない。ベンツは重厚な音を立てて出発する。そして俺の背後に回る。
俺は、いつの間にかジェミニに乗っていて、エンジンを切ろうと下を見る…

…顔を上げると、俺はまた事務椅子に座っていて、さっきとは比べ物にならないほどの恐怖にかられて身体が動かない。なんとリーダーおっしょはん、大工の三人が、輪になって練習しているのだ……

……開けた目の前では、その三人が練習をしていた。曲は『Old Train』……夢なら醒めてくれ!今すぐ!
 ……現実らしい……現実ならまた夢に戻してくれ! 今すぐ!

 だがその前に、リーダーが目ざとく俺に気付いた。
 「やっと起きたみたいやな。」
そうか、あのまま寝たのか。なぜかちゃっかり眼鏡を外している……いつ外したんだろう。それよりも時間だ。1時近いと申し分ないのだが。
 「もう10時半だよ。」
 まだ10時半!? 夢よもう一度!
「ズボさんも寝てますよ。」大工が言った。
見ると、ズボはウッドベースを抱えたままカシオのワープロの前の椅子に座って寝ている。
昨夜は運転もしなかったくせに俺より長く寝るとは許せん。すぐ起こそう。
思い立った俺は、たとえ誰かが止めようとしても不可能なすばやさで、わかりやすく言うとサイボ-グ009が奥歯をかんだ後のようなスピードでズボに近づき、非常にはっきりした声で言った。
 「何を寝とるんや、ズボ、起きろ。」
いついかなる時にも寝起きがいいのは、俺の数限りない美点の内の一つである。

だからだろう、他のメンバーは信じられないといった目で俺を見た。


15

「……まあ、全員揃ったみたいやから、昨夜の報告がてら、今後の方針を決めていこうか。」

リーダーはなぜかズボに遠慮でもするように話し始めた。どうしてだろう。ズボは俺と違って寝起きが悪いだけで、機嫌が悪いのは全く本人の勝手なのに。
 「さっきこの二人にも概略は話しといたけど、ミノ、これからどうするつもりや。」
寝てたんだから考えてるわけがない。けれどそれを言えば、このリーダーのことだ、練習になってしまう可能性は高い。ここは話をそらそう。
「おっしょはん、例の、三件の店と暴力団の関係の話は?」
「うん、あれね、」
 おっしょはんがバンジョーから目を上げた。良かった。時間が稼げる。
 「PSとジーザスにはそれほど目立った噂は無いんや。まあ、全く関係無いってことはないやろうけど。でも琥珀はすごいでー。」
作品名:Grass Street'90 MOTHERS 10-18 作家名:MINO