Da.sh Ⅱ
ホームレスの暮らし
「お〜い、健、起きろぉ、新人歓迎会だぁ」
家族と過ごした家にいる時同様の、心地良い眠りから引きずり戻されて、小さくまばたきを繰り返しながらくっつきあった瞼をようやくにして開けてみると、段ボールに囲まれた狭い空間の中にいることが不思議な感覚を伴って、昨夕のことがぼんやりと思い出されてきた。
肘をついて上体を少し持ち上げると、手を伸ばして入口の段ボールを少しずらし、外を見た。呼気で暖かくなっている空間に、冷気がなだれ込んでくる。
街路灯が暗闇の中で、ボヤ〜ン、とした光を投げかけているのが、ビニールシートを通して分かる。そういった境界の不鮮明な明暗が、一層外の静寂を際立たせている。
昨夕のことだったのかまだ今日のことだったのか、とつまらないことを思った。
ブルーシートの下では、毛布を肩からかぶり背を丸めて円く座り込んでいる、四つの姿があった。
再び眠りの中に戻りたかったが、状況をまだよく理解していないこともあって彼らに倣い、毛布を体に巻き付けて擦り切れた運動靴に足を突っ込むと、オレを振り仰いでいる源さんの隣の空いている場所に、腰を落とした。
オレの動きを追いかけ、注がれてくる目元には好奇心が丸出しで、そこにいる誰からも、悲壮感は感じられない。自分の置かれている今の境遇を、楽しんでいるかのようにも見受けられる。