Da.sh Ⅱ
「ほれっ、飲め」
差し出されたマグカップを受け取り覗き込むと、琥珀色の液体が入っており、鼻を近づけると芳醇な香りがする。久々のかぐわしい香りを、鼻を膨らませて胸一杯に吸い込んだ。空中でカップを持ったまま見渡すと、4人のニコニコ顔とぶつかった。
「まずはぁ、健の仲間入りを祝ってぇ、乾杯ぃ」
皆はカップを口に運んだが、オレはカップを下に置くと、隣に座っている源さんの、前に置かれている瓶を覗き見た。[山崎]と書かれたラベルが貼られている。
真ん中にはご馳走の入った器が三つと、各自の前には縁の掛けた皿と新しい割りばしが置かれている。
海老や野菜の天ぷら、蛸や海老や魚や小芋や椎茸や、その他豊富な食材による煮物、何か分からないものから、刺身まである。普段の生活でもなかなか口に出来なかったような料理に視線を落としていると、源さんが言った。
「うめェんだから、とにかく食えよ。自己紹介はその後だ」
生唾がほとばしり出てきて、ゴクン、と飲み込むともう堪らない。それらの器を引き寄せ、素手で片っ端からつまんでは、口の中に放りこんだ。初めのうちは、ほとんど噛むことなく飲み込んでいたが、箸を使って、ゆっくり噛みしめて食べることが出来るほどに腹が落ち着いてくると、ふと、疑問が湧いてきた。
4人はじっと、オレの夢中になって食べている姿に見入っていたのだろうか、箸を動かした様子がない。というか、料理をひとり占めにしていたことに気付いて照れ隠しに、「ごっそさん」と箸を置いてうつむいた。