Da.sh Ⅱ
オレは広い公園の中を、その男から距離をおいて付いて行った。
正面に見える都庁舎の灯が暖かくもあるが、やはり冷たくもある。
そして、都心にいるとは思えない森のような木々の間に、それはあった。
段ボールハウスの群れ。
それらの上には、木を利用した青いビニールシートが張ってある。
オレは、ついに、ホームレスになるのか!?
「お前、ホームレスになってぇ長いのか?」
「えっ?」
「違うのかぁ、家があるのか」
「カプセルホテルとか深夜営業の店とかで寝たり、時間つぶしたり」
「なぁ〜んだ、ホームレスだな」
その男はそう言いながらいくつか並んでいる段ボールハウスのひとつから、毛布を引きずり出してきた。「それ」と突き付けてくる。
受け取るのをためらっていると、段ボールハウスのひとつを顎でしゃくった。
「そこぉ、あいてるから。それとぉ毛布1枚、100円。欲しけりゃぁもっとあるよ」
それでもそこに、突っ立っていた。
「ハハ〜ン、大丈夫だって。毛布は毎日、太陽に当ててるから」
そんな事で躊躇してるんじゃなくって、いやそれもあるけど・・・野宿に、いよいよオレも野宿生活者にまで落ちてしまうことが、ホームレスであることを現実に受け入れてしまうことが、それに・・・ホームレス襲撃事件もあったし、不良に袋だたきにされるのが、怖い。
それでも、手足を伸ばして眠りたい、という欲求がある。
目の前にある暖かそうな毛布に引き寄せられて、無意識のうちに手が伸びていた。
「そうだな、3枚ありゃぁ、あったかいわ。300円」
差し出された掌に、溜息をつきながら10円玉30枚を1枚ずつ落としていくと毛布を抱き寄せ、さらに2枚を受け取った。それらを指定された段ボール御殿に、内外をしげしげと見渡してから、放り込む。ショルダーバッグも奥の方に放り入れた。
「お前ぇ、名前は? ワシは源。無論本名じゃないがな」
一瞬考え込んだが、「健」と答えた。太田健一、というのがオレの名前だ。
「濁りのあるワシとないお前と、イイコンビになれそうだ、アッハッハッハ」
この、“親しみ” を押しつけてくる男源さんは、ずっと、ニコニコしている。こういった生活を楽しんでいる風にも思えるが、もう考えることは億劫だ。
今までの積もり積もった疲れもあって、黙々と寝床を整え、毛布に挟まって横たわるとすぐに、深い眠りに落ちていった。