Da.sh Ⅱ
星慎之介たちとの一件があってから、オレの人生は急展開した。
オレが連れ去られてから源さんは、大急ぎで明良君に連絡を入れて、助っ人に来てもらったのだということ、太郎さんがオレの後を付けて、連絡役になっていたこと、仲間たちの連携に感激した。
しかも・・・。
(株)夢未来工房の住所としていた青梅市の空き家は、明良君の生まれ育った家で、現在は誰も住んでいないのでそこに住まないか、と提案してくれたのだ。
明良君達3人と明日香を伴って、その家を見に行った。
家のすぐそばには、多摩川の悠揚たる流れがあった。なだらかな山容がやはり近くに臨まれ、標高が高い分都心よりも気温が低く、住環境としては申し分ない。
明良君の家族は、父親が早くに亡くなり、母親が数年前まで雑貨屋を営んでいたという。その母親も2年前に病死したが、家は処分できずに残しているのだとか。
1階部分には、台所と食事室、風呂、トイレ、そして雑貨店がすぐに開業出来るほどの商品棚等がそのまま残っていた。2階には和室が3つと屋根裏部屋があった。屋根裏部屋には若干の荷物が遺されていたが、それらは明良君の思い出の品物なのだそうだ。
「この家は自由に使ってもらったらいい。誰かが住んでくれたほうが、傷みにくいし、手入れのために帰ってこなくていいからな。だけど、屋根裏はそのままにしておいてほしいんだ。近いうちに引き取りに来るから」
オレに異論があろうはずはない。明日香も環境が気に入ったようである。いや、3人で住めるならどこでもいい、とは後で聞かされたこと。段ボールハウスから携えてきた荷物はわずかしかない。このまますぐに住めるように、必要な物だけを整えることにした。
仲間たち、とはすでに別れを告げて来ている。
オレの手元に残っていた金、4580万円は、すべて守君に渡した。
「不当に手に入れた金で暮らしたいとは、思っていません。これは、あなた達で使ってくれませんか。奴に復讐を果たせたことで、満足していますから」
守君はしばらく思案した末に、こう提案した。
「分かりました。俺達で預からせていただきます。明良の家を借りる、家賃と考えましょう。それでいいよな、明良」
「ああ、だけど家具を揃えたり、商売を始めるにしても金はいる。明日香ちゃんの学校のこともあるし・・・それに、これは不当な金というより、やっぱり太田さんが体を張って得たものだ。奴らも納得しただろう? 取っておけよ」
心が動かなかったかと言えば、嘘になる。そこで実費分だけを必要経費として、守君に申告することにしたのだ。そうすれば、彼らとの付き合いも長く続く。
源さんも太郎さんも光圀さんも隼人さんも、「もうこの生活が気に入ってしまったから、このままここにいるよ。この仲間たちから離れたくないし」と言っていた。「誰かもうひとり、リクルートしてこないとなぁ」とも。
だから時々は差し入れの酒を持って、夜の宴会に参加しようと思っている。