Da.sh Ⅱ
虎尾強が、突っ立ったままの若造たちを見て顎を振ると、彼らは拳を振り上げて、突っかかってきた。
明良君は振り出された拳を避けるとその腕を肩掛けにとって、腰を落とすと同時に投げ飛ばした。投げ飛ばされた男は、それでもすぐに立ち上がると明良君の腰にしがみつく。そして腹に拳を入れようとしたところで、明良君はそれを両手で受け止め押し返し、右足を振り上げて相手の体を支えると、足と手の反動で再び背負い投げで飛ばした。
ガチャーンと大きな音を出して、投げられた男は自転車にぶつかり、覆いかぶさるようにして共に横転した。
俊介君は一発目を左腕で受け止めたが、続いて繰り出されたパンチを避けきれずに、頬に食らい、その力を利用したかのようなバク転をすると、地面に付いた両脚の反動で、両手を軸にして元の体勢に戻る前にはやはり男の顔面を、両脚そろえた靴底で蹴りつけていた。
頬に入った一発よりも、足蹴りの方が威力があったことは明白だ。
ぶっ飛び倒れた男を見下ろして、「おぉいてぇ」と頬を撫でさすっている。
一方、守君に対している男は、ナイフを取り出していた。
守君の手からは、濡れたタオルがぶら下がっている。たっぷりと水を吸い込んだ、まだボタボタと水が滴っているタオルだ。そして、後ろにいる明日香を「下がっていろ」と押しやると、左脚を大きく前に出し重心を後ろ脚にかけ、ナイフが突き出されてきた瞬間には、濡れたタオルの重さを利用して後方左から側面へ大きく降り回すと、水をまき散らしながらそのタオルの遠心力と重力が、バシン! と男の腕を強く叩き同時に巻きついた。そして引き倒すべく引っ張っているのだが、体格では負けており、逆に引きずられそうになっている。
先に勝負が付いていた明良君が、ナイフを持っている男の甲に、ポケットから取り出した石を命中させたかと思うと走り寄り、腕に巻きついているタオルを取り上げ男の腕を自分の脇下に引き寄せると、空いている右手で作った拳を平行に顔面中央にかました。上体をのけぞらせた男の股を蹴ると同時に、持っていた腕を放した。
「ウワォッ」
横向きに体を捻って倒れる男。股蹴りが効いたらしく、そこに手を当てて転がって唸っている。
「チェッ、まだまだ訓練が足りねェや」
これは守君の言葉。
しかし、先に倒されていたふたりがいつの間にか明日香の腕を取り、虎尾強のそばに立っていた。
「おい! 勝負の女神は私に付いているぞ!」
ハンカチを顔に当てた星が、くぐもった声で言った。鼻血を出しているようである。
明良君、俊介君、守君達の動きは、その場で固まった。
その間、オレは茫然として見ている事しか出来なかった。