Da.sh Ⅱ
うっ、という、音なのか声なのかが聞こえた瞬間右腕が解放され、喉の圧迫感が消えた。
おそるおそる目を開けると、そばにいた男がナイフを落として、前かがみになって肘を抑え込んでいた。
次の瞬間には、どこからか走り出して来た男が落ちたナイフを遠くに蹴り飛ばすと、明日香を奪い取った孝雄の、ナイフを持っている腕に足を振り上げて絡めるようにした瞬間、後ろ向きとなって上体を前に折ったかと思うと、その脚の靴底でおもいっきり男の顔面を蹴りつけた。一連の動きは滑らかで一瞬の出来事であった。全員が、突然の出来(しゅったい)に、呆然と突っ立っていただけだ。
顔面を蹴られた孝雄は後ろにのけぞるようにして倒れかけ、そこに星が背中を向けて上体だけを半ひねりして振り返ったものだから、倒れかかって来た孝雄の勢いにまきこまれて、ふたりもろともドサーッと、凄まじい音を立てて地面に転がったのである。
走り出して来た男が俊介君だと悟るまでに、少々時間がかかった。
皆の視線が俊介君に集中している間に、守君が明日香を奪い返して、背中にかばって立っている。その横には明良君が口笛を吹き鳴らして立ち、石のようなものを掌からほうり上げては、つかんでいた。
明良君が、オレにナイフを突き付けていた男の肘に、石を命中させたらしい。
「お前ら、何者だ!?」
虎尾強が、声を低めて威嚇するかのように問うた。
オレも実際彼らが何者なのかを知りたくて、息を詰めるようにして見ていた。
「太田健一の、ダチだ。仲間のピンチを黙って見てるわけにゃ、いかんだろ」
明良君! 体に電気が走った。
ひと月にも満たない期間を共有したにすぎないオレのことを、ただ厄介をかけただけにすぎないオレを仲間として扱う彼らの気持ちに感動して、しかも危険を被ることが分かっているにもかかわらず駆けつけてくれた彼らの心意気に、体が震えたのである。