Da.sh Ⅱ
明日香がゴミ袋に入ってしゃがむと、隼人さんはその口をくくった。それを確認してから、オレがゴミ箱の中に広げられているごみ袋の中でしゃがむと、同じように口がくくられ、蓋が閉じられた。
自転車が止まる音がした。その後、行ったり来たりしているのだろう、いくつもの慌ただしい靴音が聞こえている。
「いたか!」
「いえ、いません」
靴音が遠ざかったかと思えば、再び近づいた。
「クソッ、どこ行きやがった、あの禿げネズミ」
「おい、おかっぱの娘と禿げた中年の男を見なかったか?」
という声と共に、その声が急に大きくなった。ガタッ! と、乱暴に蓋が開けられたのだ。このゴミ箱の中を確認したらしい。そして、「クソッ」と言って蹴飛ばしたらしい音。明日香が入った袋も蹴とばされたのだろうか。
「なにしはりますんや、ワテの商売道具。そのふたりやったらこの路地抜けて、右に曲がったようでんな」
「それ!」
走り去る音。
「もうちょっとそのままでおりや」
いつの間にか、太郎さんと交替したらしい。隼人さんと光圀さんは顔を知られているから。
しかしこの中は、く・さ・い。
初めは息を止めていたが、仕方なく、口をパクパクさせている。新鮮な酸素が欲しい。
「あいつら、虎尾建設の事務所に入って行きましたわ」
光圀さんの声がした。
「ヨッシャ、もう出て来てもええで」
蓋が開けられ、ゴミ袋の口が解かれた。伸びをしながら大きく息を吸いこんで立ち上がると、「明日香、大丈夫か」と言いながらゴミ箱をまたいだ。
「パパ」と言って抱きついてきた瞬間、突き放された。
「パパ、くっさ〜」