Da.sh Ⅱ
ハァ〜ハァ〜、と荒い息遣いをするオレを励まして、明日香はオレの手を引いて、後ろを振り向きながら走り続ける。
そのうちに、走りながら明日香が笑い出した。
「パパ、パパが明日香の手を引っ張って、かけっこしたよね。楽しかったぁ〜、アハハハハ」
「ハァハァ、それどころじゃない、パパは命がなくなるかもしれない」
「大丈夫。明日香がパパを守ってあげる。空手2段だ」
オレは黙っていた。小学4年生になった時から通い始めた空手道場で男の子に負けることが悔しくて、小さな体でも強くなれる空手の練習に打ち込んでいたのを知っている。だが、空手と喧嘩とは違う。しかも奴らはただ、油断していたにすぎない。男の腕力に、しかも喧嘩慣れしている奴らにかなうはずはないことを、明日香は知らないのだ。
前方から自転車に乗って近づいてきたのは、太郎さんだった。
「無事やったんか」
「いや、ハァハァ、まだ、ハァ〜、わからん」
「歌舞伎町の例のとこに、源さんがおるさかい」
と言い残して、通り過ぎた。
「ハァ〜、もう走れん」
肩で息をしながら、人込みをかき分けて足を動かした。足がもつれるばかりだ。後ろを振り向いた明日香が、「追いつかれるぅ」とあせるが、走れないものはもう駄目だ。
「こっちこっち」と手を振っているのは、光圀さん。無事に解放されたらしい。光圀さんの誘導に従って路地に入り角をいくつか曲がって行くと、隼人さんが待機していた。日本料理屋ヱビ寿の裏口、ゴミ箱の蓋を開けて、その中に黒いごみ袋を広げて待っていた。
「はよ、こん中に入って。お嬢はこっちや」