Da.sh Ⅱ
東京都中心部は大都会にもかかわらず、林を成すかのような樹木豊かな公園が多い。頼りなく照らしている街路灯を頼りに、低くなり、通り過ぎると再び高くなる虫の声を耳にしながら、樹木が導く小路を広場を抜けてさらに進むと、遊具のそばに立っている黒い人影が、ふたつ見えた。
さらに近付く。
かろうじて届いている明かりに浮かび上がっているのは、ひとりは男。彼から距離をおいて、滑り台の手すりに手を掛けて立っている少女らしき影は、まさしく、出会いカフェで見かけたそのままの明日香。
ボブショートの黒髪で、目にかぶさるほどに伸びた前髪の間から、じっと私たちの動きを注視している。星が数歩抜きんでて、明日香に近づいた。
「明日香君、ママが心配しているよ。さっさと仕事を済ませて、家に帰ろう」
明日香は、星の後ろに佇むオレに視線を送って来た。オレも明日香から、視線をそらさない。好美と同じまなざしを受け止める。まばたきを繰り返す明日香。
「パパ?・・・パパ!」
駆け出した明日香を、隣にいた男が追いかけるようにして、腕を取った。前に出ようとしたオレは、その場にかろうじて止(とど)まった。今はどのように行動するか、よく考えなければならない。
「離せ!」
腕を振り払おうとしている明日香。
「ここではっきりさせておこう。明日香君は誰と暮らしたいか、だ。私とママ、それとも、太田、か。私と暮らせば、何不自由ない。太田は、借金の山でおまけに無職だ。明日香君には辛い暮らしがあるだけだ」
「パパ・・・会いたかった・・・」
「明日香・・・すまない」
オレは小さい声で呟き、頭を下げた。
「さあ、ドラマはおしまい。金の在りかに案内してもらおう。どうせ駅の周辺だろうがな」
「孝雄、ごくろうさん、もういい。娘を丁重にホテルに送ってくれ」
明日香は、「分かりやした」と再度腕を取ろうとした孝雄の胸を思いっきり押しやると、オレに向かって走ってきた。孝雄は滑り台にぶつかった勢いで反対側に転がった。
そのまま先頭にいた星の股間を膝蹴りにし、横に引いた虎尾強の腹部に拳を入れた。星も虎尾強も「いて」とうずくまっている。オレに付き添っていた若者にも、明日香は腰を落として突きを入れていた。油断をしていた彼も腰を折った。
呆気にとられて呆然と立っているオレの手を取るや、引っ張るようにして走り出した。