Da.sh Ⅱ
「ここから発する光は強烈で、目を傷める可能性がありますので、もう少し下がっていてもらえますか・・・はい、それではいきます。いち、にぃのぉ、さん!」
機械に覆いかぶさるようにして立っていた2人が、ソファの位置まで下がるのを待ってから太郎さんがスウィッチを押すと、まもなくしてからディスプレイが点滅を始め、図面と数字と英字が表示された。
その後、強烈な光が数秒間機械の周辺に向けて発せられ、その間に、機械の後ろに控えていた光圀さんが近づくと素早く試験体を取って、ポケットに隠し、再び元の位置に戻り素知らぬ表情に戻っている、はずである。機械の後方には光がこぼれないようにしているから、光圀さんからは、すべての情景が見えているのだ。
「オオオオオーッ」
感嘆の声が響いた。ソファに腰を落としている見学者たちは、身を乗り出すようにして食い入って見つめていた。オレは目を閉じていたのだが、彼らの目は大丈夫だったろうか、と心配してやる。心に余裕があるということか。
太郎さんはおもむろに機械に近づくと、説明を始めた。
「この画面に現れた図や文字などは、ご覧いただけたでしょうか。先ほどの物体を解析したものです。そのデータはそちらの機械に送られて、それに基づいて再生するわけです。
しばらくすれば着信の合図音を出して、この部分が点滅を始めます。物体が送られてきている、という合図ですな。それを受けてからこのスウィッチを押しますと、その時にも強烈な光を発し、先行して送られてきているデータに基づいて物質は元の形に復元し、現れます、はずです、フン、乞うご期待」
みんなの視線が移動した。掌を固く握りしめ、肩にも力が入っているのが分かる。唾を飲み込む音までもが聞こえるようだ。
沈黙が続いた。だがそれは、重苦しい沈黙になりつつあった。
1分ほど経過したが、何事も生じない。
俊介君、何かあったのか!?
気持ちが焦ってきた。光圀さんの表情は変わらないまま静止しているが、太郎さんがしきりに視線を送って来る。足にかけた重心を左右で何度も入れ替えて、そわそわしているのが分かる。
落ち着け! というサインを込めて、目を太郎さんからそらせずに深くうなずいた。自分自身に対するサインでもある。
見学者も「どうかしたのか」、「失敗か」とお互いに囁きざわつき始めて、太郎さんと機械とオレの方を交互に見ている。しかし、オレはまっすぐに機械を注視したまま、動じない風を装った。汗でぐっしょりとなった掌を強く握りしめて・・・。
オレをチラチラと見ていた太郎さんもしっかり開いた両脚に重心を固定すると、頭をゆっくり上下させながら、見学者を見据えた。
俊介君! 頼む・・・。