Da.sh Ⅱ
太郎さんは、鞄の中から透明のプラスチックケースを取り出すと、前に差し出してぐるりと回し、みんなに見せた。
「このケースの中に入っている物体を、こちらの機械からあちらの機械に送り付けます。原理は、この物体の形、構造、成分を機械が分析し記憶します。それらをあちらのモニターが受信し、そのままを再現させるわけです。物体は、ここから発せられる強烈な光エネルギーにより原子に分解され、あるいは電子状態となって、このケーブルを通って送られます。実際の場面では、電話回線などに使われている光ケーブルを使うことになります。
これにもまだ克服できていない弱点がありましてな、それは、皮脂、なのです。少しでも付着すると、あるいはすでに機械に付着していると、正しく復元できない、ということです。ですから私どもは、手袋を絶対にはずしません。はずしたことを忘れて、うっかり触ってしまうことがあるからです。そのために、何度機械を分解し部品を取り換えたり、清掃に時間を費やしたことか。忘れられない苦労話です。それも、改良しなければならない、課題、ですな」
オレは激しく咳込んだ、振りをした。しかしよくもまあ、次から次へと話題を思いつくものだと、感心しながらもやはり、早く終わらせてしまいたい。
そっと、星慎之介の様子を窺った。真剣に太郎さんの話に聞き入り、何度も相槌を打っている。
太郎さんはオレに笑みを送ってきている。いよいよ正念場だ。光圀さん、たのむ! 成功させてくれ!
「では」と言いながら、太郎さんはプラスチックケースを開け、中に入っている物体を取り出すと、ひとりずつの目の前に差し出して、とくと見せた。
「今は、手に持って見てもらうわけにいかないのです。皮脂がつくと、このデモは、即ストップですからな」
見学者はしげしげとその物体を眺めまわし、ひととおり見せ終わると物質伝送機の台の上に置いた。星慎之介と山科技術部長が立ち上がり、機械に近づいた。伝送される状態を間近で見ようとしているのか。