Da.sh Ⅱ
子どもの嬌声に、顔を上げた。
幼い子供を連れた母親たちが、このベンチを避ける様にして集まり始めている。2時間程度、眠ることが出来たろうか。
ショルダーバッグから取り出した、弁当に留められている割りばしをはずし、ふたを開けた。しおれたキャベツとポテトサラダと漬物が、隅に寄った飯の上に散らばっている。魚フライの表面は湿気て、容器のフタの至る所に揚げ粉が付いているが、そんなことはどうでもいい。食べ物があるというだけで、十分だ。昨日も一昨日(おとつい)もフライだった。これだけで、1日を過ごさなければならない。
フライをパサパサとなったバンズに挟んで食らいつき、無理に喉奥に押し込んでから、キャベツなどが振りかかった飯をまとめて口の中にかき込んで、瞬く間に空にしてしまうと公衆トイレに行った。
トイレの入り口で容器を棄て、中にある水道の蛇口に口をくっつけるようにして、水を喉に流し込んだ。
用を足した後、ついでに顔を洗う。
残り少なくなったワセリンを口の周りにこすり付け、汚れが付着している鏡を覗き込んで切れの悪くなったシェーバーで髭を当たり、何も付けない歯ブラシで歯を磨く。そして再び顔を洗い、ワセリンを顔じゅうに薄く擦り込んでおく。
あああァ・・・お湯が恋しい。
水の冷たさに、手先が赤くなって痺れ頭の芯まで痺れてくる。しかしどんな時にも、身だしなみだけは崩したくない。
鏡を覗くと、ところどころに剃り残しが見えるが、これ以上剃っていくと、顎に残っている傷がさらに増えてしまうことになる。
薄くなった頭髪に手を添わせてそっとすくと、毛糸編みの帽子を深くかぶせる。
生活用品、といっても、わずかの下着が入っただけのショルダーバッグを肩に掛けて、気合を入れてはみるものの、目の前にいるのは薄汚れた、生気のない、貧弱なオッサンだ。すぐに、鏡から目を落とした。
両手を上着のポケットに突っ込み、背を丸めてそこを出た。
そろそろ、図書館に移動する時間である。