Da.sh Ⅱ
横浜の事務所というのは、港湾内にある貸し倉庫の一部を区切って使用しているらしく、だだっ広いだけで殺風景な所であった。入口には表札がなく、特徴もなく、周りには似たような建物群があって1度来ただけでは再度たどり着けそうもない、彼ら自称の事務所。
いったいここで、何をしているのだろうか。
広いフロアにあるのは、パソコンデスクに載っているトップ型パソコンが1台。値の張る物はそれだけで、電話は引かれていない。冷蔵庫も見当たらない。エアコンもなく、1台の扇風機がうなり声を発して首を動かしている。
部屋の二面の高い箇所には、遠隔で操作する小さな押し窓が並んでいる。海に面しているので、扇風機が空気をかき混ぜることで、心地よい風が吹き下ろしてきている。
2台合わせた長机の周りに置かれたパイプ椅子数脚と、汚れた長ソファが1脚。それとなぜか、折り畳みベッドが・・・6台ある。小さな流しにはゴミはなく、室内は清潔に使用されている事を窺わせている。
洗面所はシャワールーム兼用となっており、お湯が出せるらしい。
弁当を早々に食べ終わったオレは、事務所内をうろついてそれらを確認してから、ソファに腰かけた。好き勝手に動き回っても、彼らは知らぬ顔だ。
しかし、会話を挟みながらまだ食っている3人を見渡して、ギョッとした。
3人とも肩幅ががっしりとしており、腕回りの筋肉が盛り上がっている。特に、明良という男の体躯は、男のオレからみても見とれるほどだ。オレは、自分の腕をつかんで力を入れた。雑誌を毎日運んでいるのでそれなりの筋肉は付いている。しかし、十分に負けている。
オレの浅はかさを思いやった。オレはこいつらに、打ちのめされるかもしれないのだ。
いや、オレはこの命を賭けても、明日香と暮らせる道を付けなければならない。出来れば、妻も取り返したい。
財布を返してくれ、とは言えないでいるのだが。