Da.sh Ⅱ
「どこ行こうか」
シュンという、運転している男が言った。
助手席に座った男が、振り返って聞いた。
「頼み、って何だ」
「話せば長くなる、いいか」
「仕方ないだろ、無理に乗り込んで来たんだから。だけど、ここでは聞きづらいよな」と、溜息をついている。
「浜崎さん、横浜の事務所に行きましょうよ。弁当でも買って」
守という、隣に座っている男が言った。見たところ3人とも、十分に若い。はたして、金を持っているのだろうか。
オレは、いつものことだが、自分の短絡さを後悔した。
「守、ジムに送って行かなくていいのかよ」
「たまにはいいよ。こっちのほうが、なんだか面白そうだし」
「そうだな、じゃ俊、横浜だ」
「ラジャー」
源さんは、生活保護を受けることを勧めてくれた。明日香と一緒に暮らせるように。明日香は今の状態では、茨城のアパートには戻れないはずだ。戻れば、星の餌食となる。だが今のオレは、明日香の前に出たくはない。出られるはずがない!
「分かった。会うなら健もぉ、もぉ少し写真のようにふくよかになってからだな、髪の量はぁ元に戻らんだろうけど、アハハハハ。あのカフェは、ワシのなじみの店だ。明日香ちゃんのことはぁ、店長に話しておこう。身に危険が及ばないように、とな」
オレのことは言わないという事で、源さんが、時々様子を見に行くことを約束してくれた。オレが会う気になるまで。
「おっさん、俺達、弁当買うんだけどさ、どうする?」
彼らとどのように話を付けようか、いやそれよりどういう筋書きで星を痛い目に会わせ、金を奪い取るのか、などの詳細を考えあぐねているうちに、横浜港の近くまで来たらしい。山下公園の標示板が見えた。
守という隣に座っている男に声を掛けられて正気に戻り、ズボンのポケットをまさぐった。すべてのポケットに手を突っ込んで集めた金と、財布に残っていた分を合わせて、およそ5000円あるはずだ。
それをそのまま、男に差し出した。
「これで、全部です」
買ったばかりのTシャツやパンツと生活用品は、すべて置いてきてしまっている。すぐには公園に戻れないはずだから、持って来なかったことを後悔した。
「じゃ、買ってくるわ。なんでもいいよな」
守は、オレの財布の中身を確認してから握りしめると、車から降りて弁当屋に入った。