Da.sh Ⅱ
「知ってるのか?」
かすれ声しか出てこない、「娘です」と。
3年間出会うことはなかったが、ショートの髪形もそのままに幼さを残している少女は、まさしく愛しい娘だ。
茨城の好美の実家にいるはずだが、それにまだ、夏休みになっていないはずである。新宿まで出てくるのは、さほど遠いという訳ではないのだが。
目の前に立って、なぜここに、こんな所にいるのか、と問いただしたい気持ちはあるが、今のオレには、それが出来るはずもない。
掌を握りしめ腕に力を込めて震わせながら、ドアレバーを注視して突っ立っていると、ドアレバーに伸びた手がドアを押し開いた。
はっ、として顔を上げると、源さんが背中を見せて、中に入って行くところである。
個室の前に突っ立っているわけにもいかず、オープンスペースでコミック本を開いていた。無論、読んでいるのではない。全神経は、先ほどの部屋の方向に向いている。
源さんは、何を話し込んでいるのだろうか。30分は、とうに過ぎている。イライラして、踵を小刻みに床に打ち付け続けた。
「なんだ、ずっとここにいたのかぁ、もったいない。せっかく金を払ってやったというのに」
肩を叩かれて、時計を見た。本を床に落として、いつの間にか眠り込んでいたらしい。
源さんをうらめしく思いながら、本を拾い上げて元の場所に戻しに行き、一度も源さんを振り向くことなくカフェから出ると、階段を下りて行った。
雨が降り出していた。
ビルの外に出るのをためらって空を見上げていると、追いついてきた源さんに腕を取られて、近くの喫茶店に連れ込まれた。