Da.sh Ⅱ
どんよりと垂れ込めた灰色の雲に覆われ、ジトッと汗ばむ季節となった昼前、ひと仕事を終えていつものベンチで、スポーツドリンクのペットボトルを手にしてオレ達はだべっていた。
公園の入口に近いところでは、源さんが見知らぬ男と、親しげに話をしている。別れ際に、封筒を受け取っているのが見えた。
隣に座っている太郎さんが言った。
「おやっさん、いっつもベンチの裏の芝で寝転がってるやろ。あれな、諜報活動やねんわ」
「そうなんですか」
「あっこに仕えとぅる奴らが、昼休みなんかに休憩しに来よるやろ。あいつら、愚痴やら腹の立つことなんかを、ここでぶちまけよるよってにな。それをしっかり聞いとるんやな、おやっさんは」
目の前には、都庁の新しいビルがそびえている。
「それを、どうするんですか?」
「あの話し込んでる男はやな、おやっさんから情報を買(こ)うてるんや。街中で知ったことやら、ワテらがもたらした情報も入ってる」
「ヘーッ、情報を買って、どうするんですか? それに、大した情報はないようにも思いますが」
「どやろ、人それぞれやさかい。案外ワテら、重要任務に付いてるんかもしれへんで」
と言って、目をギョロリと剥いた。
源さんは戻ってくると、ニヤツキながら封筒をひらひらさせて、オレに向かって言った。
「健、今晩は喫茶店に連れてってやる。可愛いぃ女の子と、ふたりっきりで会話できるとこがあるんやがぁ、知ってたか」
「それって、出会いカフェ?」
「ヌ■カフェがよろしいで」と、太郎さんが茶々をいれる。
「若い女の子としゃべってるとな、若返った気がしてくる上に楽しいぃもんや。風呂から出たらぁ、せいぜいめかし込んどけよ」
「今回は健でっか」と言って、太郎さんがスポーツドリンクを飲みほした。
ベンチの裏の芝生の上に新聞紙を広げて、雑誌であおぎながら寝そべっていた隼人さんと光圀さんが、顔だけを向けて言った。
「先月はボクでしたから」
「その前が、私」
「ほんならワテは、来月でんな」